マーティン・スコセッシ監督×スティーヴン・スピルバーグ監督の巨匠対談をお届け。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のテーマと映画の“正義”

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マーティン・スコセッシ監督×スティーヴン・スピルバーグ監督の巨匠対談をお届け。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のテーマと映画の“正義”

「人々が死に、悲劇が起こり、苦悩が生まれ、そしてそれがラジオ番組になっていた」(スコセッシ)

スピルバーグ「この映画全体のモラルの羅針盤である、すばらしく魅力的なリリー・グラッドストーンについて教えてください。彼女との初対面はとても印象的で興味深かったそうですね」

オーセージ族の女性モリーを演じるリリー・グラッドストーン
オーセージ族の女性モリーを演じるリリー・グラッドストーン [c]Everett Collection/AFLO

スコセッシ「リリーと最初に会ったのは確かZoomでした。キャスティング・ディレクターがケリー・ライカートの『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』を観ていて、写真を見せてくれました。あの映画での彼女の演技は筆舌に尽くし難いほどすばらしかった。ケリー・ライカートの映画が大好きなので。当時はZoomだけで、なかなか実際に会うことはできませんでした。それでもすぐに、彼女には私たちが必要としているものがすべて備わっていると感じました。重厚さがあり、ユーモアのセンスもある。この役を演じるうえで興味深い、知性的な要素もありました。そして、彼女自身のネイティブ・アメリカンやその問題への積極的な取り組みが、私をとても興奮させました。問題はCOVIDで、1年間すべての撮影が止まってしまったことでした」

スピルバーグ「撮影準備が実際に滞っていたってこと?」

スコセッシ「まだ撮影準備にも入っていなかったと思う。よく覚えていないんだけど、パラマウントに脚本を持って行ったら、ジム・ギアノプロス(元パラマウントCEO)がこの映画を作りたいって言う。でもそれがペンディングになったり、ようやくGOサインが出たり…。それからAppleが入ってきて、パラマウントが配給をすることになりました。実はその期間、事態はとても曖昧でした。正直なところ、この映画を製作できるかどうかもわかりませんでした。でも、私たちはただひたすらプッシュし推し進め、レオがアーネストを演じるという当初とは別のバージョンの脚本に挑戦し続けていました。そこで重要だったのはレオとリリーを対面させることで、3人でZoomをやりました。本当はZoomじゃなくて対面のほうがいいんだけど、とにかくZoomをして、終わった直後にレオが『彼女は最高だ!やるしかないですよ!』と言ってきて。私は『もちろんだよ!』と答えました。リリーが参加してくれることで、ネイティブ・アメリカンやオーセージ族、そして周辺のすべての人々とのパイプ役として、私は彼女を本当に頼りにしていたんです。

構わずオーセージ語で話し続けるシーンはアドリブだったという
構わずオーセージ語で話し続けるシーンはアドリブだったという[c]Everett Collection/AFLO

モリーが、レオが演じるアーネストのことをコヨーテと呼ぶシーンがありますが、あれはオーセージ族の民話からきています。例えば、彼がタクシー運転手として彼女を車に乗せているシーン。リリーはオセージ語で話し、レオが『なんて言っているの?』と聞いても、彼女は話し続けています。というのは、私にも彼女が話している言葉がなにを意味しているのかわからなったけれど、ハンサムな悪魔というようなことをオーセージ語で言っていたのでしょう。実はあのシーンはアドリブで、リリーはずっと笑って反応していて、あれは本物なんです。あの瞬間、アーネストとモリーだけでなく、レオとリリーの関係も見えたのではないでしょうか。あの瞬間から、彼らはお互いを信頼し合い、その種を蒔き、お互いに協力し合うようになったんだと思います」

「マーティ、あなたは映画界の真のマスターであり、これはあなたの最高傑作だと思います」(スピルバーグ)

スピルバーグ「リリーは視線や目を逸らすだけで、彼女の内面の独白、彼女がアーネストや姉妹たちについてどう思っているのかが瞬時に伝わってくるような演技でした。マーティとの会話をもっと長く続けたいけれど、最後の質問です。エピローグにあたる『ザ・ラッキー・ストライク・アワー』をどのように思いついたのですか?あのシーンが意図することはなんでしょうか?」

 開口一番「私にとって、あなたの映画を観るのは格別な体験」と話すスピルバーグ監督
開口一番「私にとって、あなたの映画を観るのは格別な体験」と話すスピルバーグ監督

スコセッシ「それは、原作(『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』)からきています。当時、FBIにはプロパガンダが必要だということで、ラジオショーをやっていたんです。私はテレビが普及する前からラジオを聴いて育ちました。『ギャングバスターズ』(1936年から1957年まで放送された警察実録ラジオショー)のような番組をよく聴いていました。そして、これはうまくいくんじゃないかなと思ったんです。人々が死に、悲劇が起こり、苦悩が生まれ、そしてそれがラジオ番組になっていた。それはFBIの思惑ですが、ラジオ番組としてある意味エンターテインメントになっていたのです。これは私自身の考え方であって、誰かを非難しているわけではありません。でも要は、(犯罪を)エンターテインメントとして楽しむことに加担しているという私自身の信念であり、この映画でさえもエンターテインメントと言えるでしょう。そういう意味で、私はできるだけ真実味のある作品にしようと心がけました。正直なところ、可能な限りと言うべきですね。


だから、ラジオ番組のような形で、アメリカの国民がこの状況をどのように受け止めるよう促されていたか、あるいはどのように信じるように促されていたかを紹介する必要があると考えました。番組の途中で突然エピローグになります。もし本当にこれが1936年のラジオのスタジオだとしたら、彼はなにを話していたでしょうか?アナウンサーは、ウィリアム・ヘイルが87歳で亡くなることを知っているわけがありません。そこでちょっとしたトリックを使い、時間を進ませるようにしました。でも、この場面で俳優を演出できるかどうか、私にはわからなかったのです。オクラホマでオーセージ族と一緒に長い時間を過ごしてきて、自分がやるべきだと思ったのです」

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は全世界配信中
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は全世界配信中[c]Everett Collection/AFLO

スピルバーグ「SAG(俳優組合)に入っていなくてラッキーでした。今日のトークができなくなるところだった(笑)」

スコセッシ「そこで、私にやらせてみてください、やり方はわかっているし、もしうまくいかなかったら俳優に頼みますと言いました。でも、やっているうちにある意味、自分自身が人生や世界に加担しているような気がしてきたんです。世界で苦しんでいる人たちに思いやりを持とうと思いました。以上です」

スピルバーグ「マーティ、あなたは映画界の真のマスターであり、これはあなたの最高傑作だと思います。どうもありがとう」

取材・文/平井伊都子

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