監督×カメラマン×カラリストが語り尽くす!『ゴジラ-1.0/C』の“モノクロ”に凝縮されたこだわりを徹底解剖
「『シンドラーのリスト』はすごく参考になりました」(石山)
――作業するにあたって参考にしたモノクロ映画などはありましたか?
柴崎「参考のために『シンドラーのリスト』と『ROMA/ローマ』を見直したところ、同じ白黒でも照明のアプローチが全然違っていたんですよ。『シンドラーのリスト』は野外の自然光のシーンはドキュメントな感じですが、室内シーンは『市民ケーン』などクラシック映画に近い、ストレートに強い光を当てるライティングなんです。いっぽう『ROMA/ローマ』は人工的な光を感じさせないナチュラル系。絞りを開いて明るくすることで成立させているんですね。個人的には『シンドラーのリスト』が好きですけど(笑)」
石山「僕も同じで、『シンドラーのリスト』はすごく参考になりました。現代風の高画質で上がっている『ROMA/ローマ』や『Mank/マンク』も観ましたが、雰囲気よりも締まるとこは締まって、見えないところは見えなくていいという古典的なスタイルのほうがブロックバスターらしいメジャー感が出せると思いました」
山崎「今回の『ゴジラ-1.0/C』に関しては、業界標準となっているカラーマネジメントシステムのAcademy Color Encoding System(以下「ACES」)という色空間上で作業をしていたことも大きかったと思います。撮影データをACESに入れ作業をするんですが、情報量が大きくダイナミックレンジも広いので、白く飛びそうな強い光から真っ暗なところまで色がきちんと出せるんです。それがモノクロにも役立ったという」
石山「もともと白組さんは10年くらい前から導入していて、『ゴーストブック おばけずかん』で初めてご一緒した時も、ACESは使いやすいというお話は聞いていました。情報量があるので、映像の立体感とか臨場感が一気に出てくる。いちばんわかりやすいのが火の質感ですね」
山崎「火はだいたい白い塊になってしまうんですが、ACESだと全部ディテールがあるので燃え上がってるのが見えるんですよ。真っ黒から真っ白まで全部表現できるという高級フォーマットです(笑)。モノクロ化にあたって石山さんがかなりいじってくれましたが、ACESじゃなかったら破綻したと思います」
「誰も気づかないと思いますが、映写機的な微妙な揺れを入れています」(柴崎)
――色味のほかに隠し味的な効果を加えることもあるのでしょうか?
石山「ビネットと言われる、周辺減光を全カットに入れてます。山崎さんから周辺を落として雰囲気をつけたいというオーダーがあったので、よく見ると画面の端はグラデになって落ちていってます。あとフィルムグレイン(粒子)も入れました。デジタルで再現する粒子は少し強めでもいいとおっしゃっていたので、4パターンくらい粒子を作って最終的に柴崎さんに選んでもらいました」
山崎「粒子で少し時代感を乗せたかったんですね。傷までやると意図的になりすぎますが、グレインだったら潜在意識で感じてくれるかな、ということで」
柴崎「あと誰も気づかないと思いますけど、フィルムの映写機的な微妙な揺れ」
山崎「揺れ入れてるんですか?監督が知らなかったという(笑)」
柴崎「タイトルで字が入ってるところでわかるかどうかというくらいですけどね。噂によるとジブリ作品もやってるとか。本当かどうかはわかりませんが、フィルムの映写機で育った人間にとってはピタッと止まるデジタルはどうしても違和感あるんですよ」
石山「気づかれるほど入れるとわざとらしいので、潜在的に気持ちよさが残るくらいに揺らしました」