“恐怖の工場長”ジェイソン・ブラムが語る、ブラムハウス作品の作り方「予算はクリエイティビティの敵」
「僕は“80%ビジネス、20%クリエイティブ”の人間です」
――ブラムさんが企画にGOサインを出される基準はなんでしょうか。
「まずは低予算で作れるか、ということです。予算はクリエイティビティの敵です。これはちょっと矛盾した言い方かもしれませんが、予算が膨らめば膨らむほど挑戦ができなくなるんですよ。例えばメジャースタジオで予算1億ドルの映画を検討する際は、『過去5年に、同じようなテーマで、1億ドルの予算かけてヒットしたものが3本以上あるか』というような決め方をします。石橋を叩いてから渡るようなもので、それは同時に企画選びに冒険をしないことでもあります。ですが低予算であれば、そんなことは気にしなくてもいい。僕は“これまでにない新しさがあるか”、“おもしろいストーリーか”、“怖いか”という点を大事にしています」
――ブラムハウス作品のイキの良さ、強さの秘密がわかったような気がします。ところでホラー映画文化においてプロデューサーの名がここまで立っているのは、僕の記憶ではロジャー・コーマン(筆者註:低予算のホラーやアクション映画を次々と送りだし、B級映画の帝王と呼ばれた。ジャック・ニコルソンやフランシス・フォード・コッポラなど多くの才能を見出したことでも知られる)以来ではないかと思います。
「もちろんロジャー・コーマンのことはリスペクトしています。彼も低予算映画で勝負してきましたからね。ただコーマンとブラムハウスには決定的な違いがあるんです。コーマンは新人監督を多く起用しましたが、ブラムハウスではすでに実績のある監督を中心に起用しています。彼らの多くは、才能があるのに少しトレンドから逸れてしまって、作品を作る機会に恵まれていない人々です。
一人例をあげるとしたら、ジェームズ・ワンがそうでした。彼は『ソウ』シリーズでブレイクしたあと、少しスランプ気味でしたが、僕は彼の才能を信じていたので声をかけたんです。そうして生まれたのが『インシディアス』です。先ほどブラムハウスのことを“フィルムメーカーの役に立つ製作会社”と言ったのはこういう理由からです。ただ『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』については、とにかく原作ゲームの作者であるスコット・カーソンの意見を最優先にしたので、彼が推薦した新人のエマ・タミを監督に起用しました」
――ワンの名前が出たところで、彼が率いる製作会社アトミック・モンスターとブラムハウス・プロダクションズの合併も話題です。ビジネスパートナーとなったワンをどういう人間だと思いますか?
「僕は“80%ビジネス、20%クリエイティブ”の人間ですが、ワンは“20%ビジネス、80%クリエイティブ”なんです。お互いに違うから上手くいくし、尊敬しあえるのでしょう。そしてワンほど人を怖がらせることに長けたクリエイターはいませんね」
――『M3GAN/ミーガン』(22)も『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』もいい意味で怖すぎず、ライト・ホラーとして楽しめました。怖すぎない映画を製作しているのは、ホラー映画のすそ野を広げたいという戦略でしょうか。
「実はあまりマーケティングとか、こういうのがいいだろう的なことは考えていません。ただホラー映画においてずっと怖いだけだと麻痺してしまうので、観客がリラックスできる、例えば少し笑えるとかそういう塩梅は大事にしています。だから結果的にライト・ホラーになったのかと思います。あともう一つ大事にしているのが“家族”という要素です。ブラムハウスのホラーでは、家族の物語が重要な要素になっています。一番身近で共感しやすい家族をホラーと絡ませることで物語がぐっとおもしろくなりますよね」
――日々さまざまな企画が持ち込まれることでしょうが、今後日本のクリエイターがブラムハウスで監督をすることも“あり”なんでしょうか?
「もちろんです!最近だと『ゴジラ-1.0』が本当にすばらしかった。あの作品も怖い映画ですよね。先ほど僕が大事にしたいと言った、家族ドラマの要素もきちんとある。山崎貴監督とはお会いしたいと思っています」
――それは楽しみです。楽しみといえば僕はブラムハウスの現在のムービング・ロゴが大好きです。『ハロウィン』のマイケル・マイヤーズから始まり、歴代ブラムハウス作品のキャラが次々と出てきますが、いつかブラムハウスのホラー・キャラが全員共演する、ブラムハウス版『アベンジャーズ』みたいな企画はどうでしょうか?マイケルとミーガンが戦うとか(笑)。
「それはおもしろいですね!ただ、どの作品もブラムハウスだけではなくほかの出資者、権利者もいるので…。調整が大変ですね(笑)」
インタビューを終えて、ブラムさんがいまの映画界におけるホラー映画の仕掛け人であると同時に、映画ビジネスについてすばらしいビジョンを持った人だと感じました(そしてナイスガイ!)。とにかくメジャー・スタジオでは出来ない意欲的な作品を作る、そして多くの映画作家にチャンスを与える存在でありたいという言葉が胸にささりました。「予算はクリエイティブの敵」というのも、とても深い意味がある名言ですね。
今後もたくさんのブラムハウス発の映画が封切られます。映画館で震えながらも一つ一つの作品に込められたブラムさんの熱意を感じたいです。
なお『ハッピー・デス・デイ』マスク姿の僕との2ショット写真を、ブラムさんが自身のX(旧ツイッター)にあげてくれました!次お会いする時はミーガンか、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』のキャラクターたちの扮装にチャレンジしたいと思います。
取材・文/杉山すぴ豊