「“鎮める”という感覚を世界が欲しているのではないか」日本映画初の偉業を成し遂げた『ゴジラ-1.0』スピーチ全文&受賞後インタビュー
山崎貴監督 第96回アカデミー賞視覚効果賞受賞スピーチ全文
山崎貴「40年以上前、『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』を観たショックからキャリアをスタートさせた私にとって、この場所は望むことすら想像しなかった場所でした。ノミネートの瞬間、私たちはまさにロッキー・バルボアでした。強大なライバルたちの前でリングに立たせてもらえたことはすでに奇跡でした。しかし、私たちはいまここにいます! この場所から遠く離れた所でVFXを志している皆さん!ハリウッドが、君たちにも挑戦権があることを証明してくれました!最後に、『ゴジラ-1.0』のスタッフとキャストを代表して、去年亡くなった我々のプロデューサー、阿部秀司さんにお伝えしたいです。僕らはやりました!ありがとう!」
渋谷紀世子「会場のみんな、東京のみんな、ありがとう!」
受賞後会見スピーチ全文
――ほかの候補作品と比べると、特に予算の面で、歴史的な受賞と言えます。限られた予算ですばらしい仕事をしてくれると証明したので、たくさんの依頼が来るのではないでしょうか?こんな作品に関わってみたいというものはありますか?
山崎「ゴジラがすごくたくさんの扉を開いてくれているので、これから新しい冒険が始まるんじゃないかなと思います。どっちに向いていくのかわかりませんが、いままでとは違う可能性がものすごくたくさん出てきたんじゃないかな」
――日本映画として初めての視覚効果賞受賞ですが、この受賞の意味と、今後日本映画界にどんな影響があると思いますか?
山崎「まだそこまで実感がわかないんですが、一つは、日本の映画が海外でもある程度興行していければ、日本の映画の環境が変わっていくと思いますし、僕らで変えていかなきゃいけないんじゃないかなって思っています。そのためにも、これからの行動がすごく重要になってくるんじゃないでしょうか」
――記憶が正しければ、まだ(北米での)ホームエンタテインメントのリリース情報がありません。(ゴジラには)ワーナー・ブラザースとレジェンダリーとの契約があるとは思いますが。
山崎「日本ではホームバージョンの発売が発表になっています。おそらく東宝とレジェンダリーの契約はあると思うんですけど、かなり譲歩してくれました。非常に感謝しています。本来よりはすごく寛容な対応をしてくれたと聞いています。非常にありがたかったなと思います。でも…アメリカでまだ公開が続いたら、ものすごく助かったなとも思うんですけれど(笑)。まあそれはちょっと、そこまで望んではいけないよなと思いながら、なんとか自分を鎮めてまして(笑)」
――『ゴジラ-1.0』は、『オッペンハイマー』と対になる作品のように感じました。
山崎「そうですね。おそらく、作っている時はまったくそういうことは意図されてなかったと思いますが、出来上った時に世の中が非常に緊張状態になっていたことに、すごく運命的なものを感じます。『ゴジラ』というのは戦争の象徴であったり、核兵器の象徴であるゴジラをなんとか“鎮める”という話だと思うのですが、“鎮める”という感覚を世界が欲してるんではないかな。それがゴジラに一部つながってるんじゃないかなと思います。まあ、それとは別に、『オッペンハイマー』に対するアンサー映画は、僕の個人的な思いとしては、いつか本当にアンサー映画を日本人として作らなきゃいけないんじゃないかって感じています」
――このゴジラのデザインはどんなものから影響を受けていますか?
「非常に様々なゴジラのデザインを見て、もう“これこそゴジラだ”っていう形を実際にゴジラを造形するスタッフと共に模索しました。やっぱり、今回は核兵器と戦争の象徴であるっていうことを非常に強く打ちだしたかったんで、見るだけで恐怖が迫ってくるとお客さんの潜在意識に訴えかけるような、そんなデザインにしたつもりです」
文/平井伊都子