唯一無二の漫画家、浅野いにおの歴代映像化作品をプレイバック!初アニメーション映画「デデデデ」に備えよう
実写映画化もされた代表作「ソラニン」や、「おやすみプンプン」などを手掛けた浅野いにおによる傑作漫画が、初めてアニメーション化された映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(通称・デデデデ)が、前後編の2部作として映画化。3月22日(金)に前章が、5月24日(金)に後章が公開される。感動作から衝撃の問題作まで、日本漫画界に圧倒的存在感を放ち続ける浅野だが、「デデデデ」公開を記念して、歴代映像化作品をまとめてご紹介。
宮崎あおいが主演を務めたほろ苦い青春映画『ソラニン』
最初に実写映画化されたのは、累計90万部発行を記録する人気コミックスで、浅野いにおの名を世に知らしめた同名作『ソラニン』(10)。宮崎あおい主演、『アオハライド』(14)などの三木孝浩監督がメガホンをとった。
社会人2年目の井上芽衣子(宮崎)は大学で知り合った恋人の種田成男(高良健吾)と、東京の片隅で寄り添い合いながら暮らしていた。未来に希望が持てないままでいた芽衣子は、ある日、勢いで仕事を辞めてしまう。そんな芽衣子と、不安定ながらも支えあう生活のなかで、音楽の夢を諦められずフリーターをしながらバンド活動を続けていた種田は、「ソラニン」という新曲を書き上げ、レコード会社に持ち込むが、どこからも反応がないまま時が過ぎていく。現実を知り夢に破れながらも再び前を向き始めた矢先、種田はバイク事故に遭い、1人遺された芽衣子はギターを手にする。
映画のメインテーマソングとして起用された楽曲「ソラニン」は、作詞を浅野が手掛け、作曲をASIANKUNG-FUGENERATIONが書き下ろしたもので、大きな注目を浴びた。劇中では宮崎、高良らによる歌唱シーンも見られる。夢と現実に揺れる若者の葛藤と人間模様をリアルに描く物語は、いままさに青春を謳歌する若い世代からかつての若者まで観る者の心を打つ感動傑作となった。
石川瑠華と青木柚が思春期の切実な恋と性を体現した『うみべの女の子』
続いては、思春期のもろく繊細な心理を生々しく描きあげた『うみべの女の子』(21)。メガホンをとったのは『桜の雨』(15)のウエダアツシ監督で、主演は浅野立ち合いのもと、オーディションで選ばれた石川瑠華と青木柚がダブル主演に抜擢された。
海辺の田舎町に暮らす中学2年生の佐藤小梅(石川)は憧れの先輩に手酷いフラれ方をされたショックから、かつて自分に告白してくれた内向的な同級生の磯辺恵介(青木)と衝動的に体の関係を持ってしまう。小梅は磯辺に対して恋愛感情はなかったが、その後も2人は関係を繰り返すことに。あいまいな秘密の逢瀬を続けるなかで、小梅は徐々に磯辺への想いを募らせていくが、磯辺は想いを寄せていたはずの小梅との関係を終わらせようとしていた。ある日小梅は、磯辺が胸に秘めていた想いを知ることに。それは兄を自殺で失った過去と、生きることへの息苦しさだった。
小梅と磯辺を取り巻く友人たちを前田旺志郎、中田青渚、倉悠貴ら注目若手俳優陣が務め、磯辺の父、秀雄を実力派俳優の村上淳が演じる。石川と青木は、体を重ねるほどに心の距離は遠ざかるという、痛々しいほどに切実で残酷な思春期の「恋」と「性」をリアルに紡ぎあげた。そんな本作は、かつて中学生だったすべての人に少しの痛みとともにノスタルジーを呼び起こす1作となった。
斎藤工主演、竹中直人監督が実写映画化したシリアスな人間ドラマ『零落』
3本目は、俳優のみならず映画監督としても活躍する竹中直人がメガホンをとり、竹中とは『ゾッキ』(20)でもタッグを組んだ斎藤工を主演に迎えて実写映画化した『零落』(23)。
「さよならサンセット」というタイトルの漫画が大ヒットし、一躍人気漫画家の仲間入りを果たした深澤薫(斎藤)は、8年間の連載を終えたあとに残された虚無感のなかで、自堕落的な毎日を送っていた。敏腕漫画編集者として働く妻のぞみ(MEGUMI)との関係は冷え切り、売れ線狙いの担当編集者、牧浦かりん(安達祐実)からは冷遇されていた。漫画家として求められない日々に鬱屈した気持ちを募らせていく深澤は、ある日“猫のような目をした”風俗嬢・ちふゆ(趣里)と出会う。
浅野にとって半ば自伝的でもあり、これまでの作風に見られたコミカルな描写を封印し、シリアスな精神世界を描いた物語は、浅野をはじめとする表現者だけでなく、この時代を生きる人々の心を揺るがす問題作となった。
浅野いにお初のアニメーション映画化作品『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』
浅野作品、待望の映画最新作は、2部作として公開される『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』。いよいよ前賞が3月22日(金)に封切られる。
東京でハイテンション女子高生ライフを送る、小山門出(幾田りら)と"おんたん“こと中川凰蘭(あの)。突如巨大な「母艦」が東京へ舞い降りた3年前の8月31日、この世界は終わりを迎えるかにみえたが、絶望は日常に溶け込み、大きな円盤が空に浮かぶ非日常のなかで、門出とおんたんは青春を謳歌していた。しかし、ある夜に起きた悲劇から、2人と世界は破滅へと加速していく。
主人公の小山門出役に、日本を飛び出し世界からも注目を集め、YOASOBIのボーカルikuraとしても活躍する幾田が、中川凰蘭役をマルチに活躍し若い世代を中心に絶大な人気を誇る声優初挑戦のあのが演じることも大いに話題を呼んでいる本作。
アニメーションディレクターには「PSYCHO-PASSサイコパス」シリーズの演出を手掛けた黒川智之、脚本には「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」シリーズの吉田玲子といった日本のアニメ界を牽引する制作スタッフが集結した。幾度も映像化作品を生みだしてきた浅野が唯一無二の世界観で描きあげた予測不能の破壊(デストラクション)がもたらす“くそヤバい”映画体験を、ぜひスクリーンで堪能していただきたい。
文/山崎伸子
※宮崎あおいの「崎」の正式表記は「たつさき」