歌にモノマネに司会に監督業まで!イタリアの国民的人気女優パオラ・コルテッレージってどんな人?
『環状線の猫のように1&2』郊外の貧困を風刺を交えて描く
『環状線の猫のように』(17)は郊外住宅地を舞台にしたコメディ。ジョバンニは欧州議会のシンクタンクで、イタリア各都市に広がる郊外の貧困を解消するために調査をしている。出張からローマに戻ってきたジョバンニは、13歳の娘アニェーゼから恋人ができたことを告げられる。その恋人というのは、郊外の中でも治安の悪い地区に住むアレッシオだった。愛娘を救いだそうと決意したジョバンニは、アレッシオの母モニカと衝撃的な出会いを果たす。「ローマ郊外を描くのはネオレアリズモのころからの定番」だと言う野村は「次々に家やマンションができ、都市が大きくなる一方、家を持てない人たちは街の外に出て行きます。低所得者のほか、移民も増え、社会のあらゆる問題が街の郊外に集まることになったんです」と解説。コルテッレージは郊外の粗暴なヤンママ役で、息子の恋人の父親でシンクタンクに務める生真面目な男と惹かれ合う。監督はコルテッレージの夫リッカルド・ミラーニだ。「リベラルな男を郊外に放り込む、その発想がいいですね。ミラーニ作品の持ち味は、誰かを貶めるのではなく笑いながら融和させること。団地に住んでる人たちは笑えるだろうし、スノッブなインテリ層も耳が痛いけど笑えちゃう。よく考えられた明るい作品です」と絶賛。
続編『環状線の猫のようにPART2:バック・トゥ・ザ・ビーチ』(21)は、前作から3年後、双子姉妹が犯した万引きの責任を取って刑務所に入ったモニカが、政治家のツテを持つジョバンニに助けを求めるところから物語が始まる。「パオラのファッションも含め、次はもう少しエスカレートしてほしいなと思ってたので、その期待に応えてくれています。コメディ要素が増しましたが、親子ともども住む世界が違う者同士の結びつきがおもしろく描かれています」。
『こどもたち』元彼と一緒に「2人目問題」に向き合う?
『こどもたち』(20)は第2子の誕生を機に、夫婦の間に亀裂が走る姿がシニカルに描かれる。サラとニコラは共働きをしながら、6歳の一人娘と慎ましくも幸せに暮らしている。第二子の妊娠が発覚し、改めて力を合わせて生活することを誓い合う2人だったが、お金と時間に余裕がなくなり夫婦関係に亀裂が走る。「2人目の苦労ですから『あゝ無慈悲』を乗り越えると、こちらが待っているという(笑)。日本でも家庭環境や労働環境によって同じ悩みを持つ人も多いでしょう」。コルテッレージが演じる妻は、仕事に復帰するため両親に育児の協力を頼むが拒否される。「経済的な面だけでなく、親が頼りになるかどうかも重要です。変に子どもっぽいリタイア世代のリアルがきちんと描かれていると思います。90年代の映画だったら、親との関係も違ったでしょうし、そういう意味で時代を映した映画ですね」と考察する。さらに夫役のヴァレリオ・マスタンドレアの意外な素顔も教えてくれた。「20年くらい前、実生活でパオラの恋人だったんです。別れたあとは共演NGだったかどうかは不明ですが、2人はこれが初共演。イタリアでは有名なので狙った起用でしょうが、2人の相性はバッチリでした(笑)」。
イタリア映画祭2024ではパオラ・コルテッレージ初の監督作を上映
毎年、日本でもイタリア映画祭が開催されている。先で紹介した『環状線の猫のように』と『こどもたち』は、過去イタリア映画祭で上映されていた作品でもある。野村が代表を務める「京都ドーナッツクラブ」は翻訳やパンフレットの寄稿などで、映画祭に携わっている。5月1日(水)から6日(月・祝)に東京、5月18日(土)・19日(日)に大阪で開催される今年の映画祭について、「ほとんどが日本で公開が決まっていない2023から24年にイタリアで公開された作品。希少性が高いのは、映画祭ならではのお楽しみですね」と期待を寄せる野村。今年の見どころを聞くと、「もちろん、パオラ・コルテッレージです」と答えた。「パオラの初監督・主演作『明日がまだある』(23)が上映されます。イタリアでは2023年秋に公開され、年間興行収入1位になった大ヒット作です。驚いたのは、1946年のローマを舞台に当時の女性の地位の低さを描いたモノクロ映画ということ。DVシーンもありますが、暴力をダンスに置き換えて、いままで見たことのない表現で描いていました。テーマは重い作品ですが、ユーモアの要素も持っているのでぜひ観てほしいですね」。
もう1本、俳優の監督作が上映される。「東京だけになりますが、マルゲリータ・ブイの初監督・主演作『ヴォラーレ』(23)が上映されます。彼女はパオラよりひと回り上のイタリア映画を支えてきた大スターの1人。飛行機が苦手な女優が、それを克服しようとするライトなコメディです。男性が多い業界システムのなか、『やりたい』と声を上げた女性は映画界で最重要の2人。その2本が上映されるのは、今年の大きなトピックでしょう」と語ってくれた。
京都ドーナッツクラブで、イタリアン・ホラーの巨匠の自伝「恐怖 ダリオ・アルジェント自伝」(フィルムアート社刊)の翻訳を手掛けるなど積極的に活動している野村。今後のイタリア映画に対する期待を尋ねると「近年の傾向から見てですが」と前置きをして、エンタメ分野の盛り上がりだと語った。「若い世代がどんどん出てきています。映画祭で賞を取るような作品だけでなく、ヒーロー映画『ディアボリック』(21)のようなかつてのイタリアのジャンル映画の豊潤さを取り戻す作品にもどんどん出てほしいですね。世界的ヒット作の登場に期待しています」。
取材・文/神武団四郎
ラジオDJ、翻訳家。大阪のFM802での様々な番組を経て、現在は姉妹局FM COCOLOのモーニングショー「CIAO 765」を担当。イタリアの知られざる文化を日本に紹介する株式会社京都ドーナッツクラブの代表も務め、映画の字幕制作、コラム執筆や書籍の翻訳も手掛ける。
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