デビュー作から「アンナチュラル」、最新作『ミッシング』まで。トップ女優・石原さとみが歩んだ軌跡とネクストステージ

コラム

デビュー作から「アンナチュラル」、最新作『ミッシング』まで。トップ女優・石原さとみが歩んだ軌跡とネクストステージ

卓越した演技力と入念な役作りで多彩なジャンルに挑戦!

舞台女優としても活躍する石原は、作品への深い理解と役柄の徹底的な研究で、その演技力が高く評価されてきた。演じる役柄も幅広く、過去には「霊能力者 小田霧響子の嘘」でエセ天才霊能力者に扮したり、「高嶺の花」で冴えない自転車店の店主と恋に落ちる華道の名門「月島流」本家の長女を艶やかに演じたことも。また庵野秀明総監督、樋口真嗣監督による『シン・ゴジラ』(16)では、日系アメリカ人の米国大統領特使を好演。英語交じりの日本語というセリフ回しはもとより、「心情を読み解くのが難しい人物で、現場で胃が痛くなるくらいプレッシャーを感じた」と後に彼女は語っているが、この役で第40回日本アカデミー賞の優秀助演女優賞を受賞している。

さらに綾野剛共演作「恋はDeepに」では海を心から愛するワケありのヒロインを体当たりで演じ、浅野内匠頭の奥方である瑤泉院役を演じた『決算!忠臣蔵』(19) ではコメディエンヌの才能も披露。話題となったのは永野芽郁、田中圭と共演した『そして、バトンは渡された』(21)で、石原は初の母親役となるシングルマザー役にトライ。次々と夫を替える自由奔放な人物を嫌味なく演じ、ラストには深い感動を与える物語のキーパーソンを担った。

常にアップデートし続ける石原が『ミッシング』で衝撃的演技を披露

沙緒里は、夫、豊や弟の圭吾の態度に痺れを切らすようになっていく
沙緒里は、夫、豊や弟の圭吾の態度に痺れを切らすようになっていく[c]2024「missing」Film Partners

このようにトップ女優として第一線を走ってきた石原だが、ある時、どこか仕事に飽きている自分に気が付き、焦りを感じたことがあったという。そんな状況を打開すべく吉田恵輔作品への出演を直談判したのが7年前、そのたっての願いが叶い、結実したのが『ミッシング』だ。

娘が失踪して3か月。娘の失踪時に沙織里(石原)が、推しのアイドルのライブに行っていたことが発覚し、“育児放棄の母”との誹謗中傷がネットを駆け巡る。あらゆる手を尽くしても愛娘が見つからずに焦りばかりが募るなか、淡々としている夫(青木崇高)に苛立ち、孤独に苛まれる沙織里。娘を想う母の強い愛情が共感の涙を誘い、次第に心を失くしていく姿が鋭く胸をうがつ。そんな極限状態の母親像を具現化した石原の鬼気迫る演技は圧巻だ。

沙緒里と豊は“マスコミ”に翻弄されていく
沙緒里と豊は“マスコミ”に翻弄されていく[c]2024「missing」Film Partners

5月18日に行われた『ミッシング』の公開記念舞台挨拶に登壇した吉田監督は「俺や石原さんの分岐点となる作品」と称しているが、その言葉通り、石原は持てる才能を全て本作に注ぎ込み、女優としてネクストステージへの第一歩を踏みだした。彼女の新たな代表作となるのは間違いない『ミッシング』。シン・石原さとみの熱演と覚悟をぜひ劇場で堪能してほしい。

みかん畑で働くシーンの”横顔”も美しい沙緒里
みかん畑で働くシーンの”横顔”も美しい沙緒里[c]2024「missing」Film Partners


文/足立美由紀

※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記

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