快進撃を続ける河合優実…『佐々木、イン、マイマイン』から『サマーフィルムにのって』『PLAN 75』『あんのこと』へとつながる役者としての存在感に迫る
観客の視点になる役柄で絵空事でない社会問題について考えさせた『PLAN 75』
「私は運がいい」。役に恵まれている自分のことを河合はそう公言しているが、その運を引き寄せているのは彼女ならではの空気感と魅力、高い演技のスキルなのは言うまでもない。台本を読み解く力と自らに課せられた役割を掴む能力に長けていて、自分の考えをしっかり持ち、そのスタンスがブレないから、河合はそれぞれの作品の人物として生きることができるのだ。
『PLAN 75』(22)で演じた瑶子は、まさにそのことを象徴するような人物だった。早川千絵監督が第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門カメラドール特別表彰を受賞した本作は、近未来の日本を舞台に、75歳以上の人たちが自らの生死を選択できる制度「プラン75」が施行された社会に翻弄される姿を描いたヒューマンドラマ。
瑶子は死を選んだ高齢者をサポートする市役所のコールセンターのスタッフだが、プラン75の申請を検討し始めた78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)と電話で話したり、彼女と一緒に過ごす規則に反した行動をするなかで、制度と自分の仕事に疑問を抱き始める。
瑶子は作品を観る私たちの視線になるキャラクターでもあるが、ミチと言葉を交わし、その時々に湧き上がる瑶子の心の揺らぎを自らの表情や佇まいににじませる河合のリアクションにはまるで嘘がない。他人事ではなく近い将来実際に起こるかもしれない問題に、彼女が真摯に向き合い、そこで感じたものを素直に提示したからこそ、多くの人の共感を呼んだのだ。
ドキュメンタリーと見間違うほど役になりきった『少女は卒業しない』
それこそ、直木賞作家である朝井リョウの連作短編小説を原作にした主演映画『少女は卒業しない』(22)では、“ある想い”を抱えながら、卒業生代表の答辞を担当することになった主人公のまなみとして生きるため、河合は自らのアプローチを実践している。
本作は廃校が決まった高校を舞台に、三年生の4人の女子生徒が卒業式を迎えるまでの2日を見つめた青春群像劇。まなみの“ある想い”は河合自身が知り得ない経験から芽生えたものだったが、そこがちゃんとしてないと本作は成立しない。そのことを誰よりも確信していた彼女は、原作からイメージを膨らませ、同じような経験をしている監督からヒントをもらいながら、そのせつない感情を自分のものにしていた。
大好きな彼、駿(窪塚愛流)と過ごした、2人の最もキラキラしていた時間を初々しくかわいらしい芝居で大切に演じきり、卒業ライブで軽音部の剛士(佐藤緋美)が熱唱する「Danny Boy」を聴くシーンでは、「素直に感動したいから」という考えで本番まで彼の歌唱を聴かないスタンスを実践。
まなみが答辞を読むクライマックスも、その時に湧き上がる純粋な感情を焼き付けたくて、自分から監督に「最初からカメラを回してください」とお願いしたというから大したものだ。ドキュメンタリーと見間違うそのラストの無防備な表情からは河合の俳優としての非凡な才能と本気度がびしびし伝わってきたが、あの時からすでに、彼女の前には明るい未来が広がっていたのかもしれない。