バンドがアツかった時代のスリリングさ、高揚感を呼び覚ましてくれた!音楽でひも解く「ぼっち・ざ・ろっく!」の魅力
エモーショナルな演奏シーンと劇中曲との親和性
リアルな演奏シーンも見どころの本作。第6話と第8話で登場し、放送後話題になった「あのバンド」は、グルービーでスリリングなビート、疾走感あふれるサビ、ネガティブな感情をぶちまけるようなボーカルが特徴的で、くすぶっていた炎が一気に燃え上がるような楽曲だ。
第6話では、劇中のカリスマバンド、SICK HACKのベース&ボーカルである廣井きくり(声:千本木彩花)とぼっちによるギターとベースだけのインストゥルメンタル演奏が放送。第8話では結束バンドのライブで演奏され、イントロの前にぼっちのテクニカルなギターソロが加えられた。物語の展開に沿って、同一楽曲の様々なバージョンがあることも魅力の一因となっている。
バンドものアニメの定番である文化祭ライブはテレビアニメのクライマックスだ。文化祭でのステージが描かれた第12話では、「忘れてやらない」と「星座になれたら」の2曲が使用された。ポップで清涼感あふれる「忘れてやらない」。一方の「星座になれたら」はキメのイントロ、跳ねたビート、シティポップ調の爽やかなメロディが秀逸。劇中では、演奏中にギターの1弦が切れ、続けて2弦のペグも狂ってしまったぼっちが機転を利かせ、きくりが飲んでいた酒のカップを使ったボトルネック奏法を披露する。スリリングでダイナミックな演奏が強い印象を残した。
これら楽曲はアルバム「結束バンド」に収録。オープニングテーマ、エンディングテーマ、劇中歌に加え、「ひみつ基地」「ラブソングが歌えない」などの新曲も収録されている。このアルバムは、轟音、キメ、ギターリフ、ループ、変速リズム、ダンスビートなど、2000年代初頭のライブシーンを盛り上げた邦ロックバンドたちの様々な要素が凝縮された1枚。オリコンやBillboardなどの音楽チャートでは1位を獲得した。
また、人気ロックフェスをモチーフにしたライブイベント「BOCCHI IN JAPAN」「NUMBER BOCCHI」なども行い、昨年はZepp Hanedaで初のワンマンライブ「結束バンドLIVE-恒星-」が実施された。今年5月に開催された野外音楽フェス「JAPAN JAM 2024」にも出演し、アジカンや10-FEETらと同じステージに立っている。
「ぼっち・ざ・ろっく!」は、高校の先輩や後輩、大学生や大人が混在するライブハウスという縦社会で、決してなれ合うのではなく、揉まれながら成長する姿が描かれたところにリアリティを感じる。2000年代初頭の邦ロックとライブハウスシーンに精通した作者であればこそのストーリー展開は絶妙だ。また、ロックバンドとライブを熟知した作詞・作曲陣による楽曲は、バンドがアツかった時代の、ライブのスリリングさや高揚感、楽しさを呼び覚ましてくれた。コロナで打撃を受けたライブシーンに、希望の光を与えたとも言っていい。その熱は冷めることなく、ますます熱く燃え上がっていきそうだ。
文/榑林史章