『密輸 1970』では陸でナイフ!海でサメ!! 韓国が誇るヒットメーカー、リュ・スンワンのエネルギッシュなアクション術
水中バレエチームと作り上げた『密輸 1970』のアクロバティックなアクション
戦時下の過酷な状況を題材とした『軍艦島』(17)で歴史的な題材に挑んだリュ・スンワンは、さらに『モガディシュ 脱出までの14日間』(21)で'90年末から'91年にかけて起きた実際の事件を映画化。内戦が激化したアフリカのソマリアで孤立した南北の大使館員たちが、お互いの命を守るために団結し突破口を探していく。現地に近いモロッコで撮影されたこの映画では戦火の中を駆け抜けるカー・チェイスが見どころとなるが、関係者が存命ということもあり、スペクタクルとしてのみ消化しないように注意しながら撮影したという
そんなリュ・スンワン監督の新作『密輸 1970』は、『血も涙もなく』以来、約20 年ぶりの女性中心のクライム・アクション。地方のさびれた漁村を舞台に、密輸でひと儲けしようとする人々の駆け引きが入り乱れ、最後まで目が離せない。このなかで最も派手なアクションを披露するのが、『モガディシュ〜』に続いての出演となるチョ・インソン。密輸業界の大物クォン軍曹に扮した彼が、ホテルの部屋という狭い空間の中で長い手足を十二分に使って見せるカリスマティックなアクションは、リュ・スンワン作品のなかでも際立つ迫力だ。リュ・スンワンはこの映画のアクションについて「最近、ますます基本に充実でなければならないという気がしている。視線や動線の方向、どのように動いたのか、そしてどんな空間でアクションが展開されているのかを明確に見せなければならない」と語っている。その言葉どおり、大人数が入り乱れる乱闘シーンであっても、それぞれの攻防を丁寧に捉えて軽快なリズムで見せていく彼のアクション演出が存分に楽しめる。さらに、海中に投げ込まれた密輸品を引き上げる海女たちが活躍するこの映画には、水中でのアクション・シーンも登場。水中バレエチームとも相談しながら、地上ではなかなかできないアクロバティックな動きも取り入れている。
5月に行われたカンヌ国際映画祭では、最新作の『ベテラン2』がワールド・プレミア上映され、リュ・スンワンも主演のファン・ジョンミンや、新たに加わったチョン・ヘインと共に現地を訪れた。自作だけでなく、イ・チャンドン監督の『オアシス』( 02)などにも出演した経験を持つ監督だけに、俳優たちにも負けないほどタキシード姿が決まっていた。誰もが期待する大ヒット作の続編がどのような仕上がりとなっているのか、こちらも日本上陸が待ち遠しい。
文/佐藤 結