すべてを“エグる”ドラマが、ディズニープラスに降臨。岩明均原作「七夕の国」に期待が高まる理由とは?
若手からベテランまで。実力派俳優たちが体現する複雑な人間ドラマ
主人公のナン丸は押しが弱くて優柔不断、ものごとを楽観的に捉える平凡な若者。“手がとどく者”として能力を発揮していく彼は、その力に向き合うことで少しずつ成長をとげていく。能力を開花し有頂天になったり、その力を利用され落ち込んだりと、どこか危なっかしくも微笑ましいキャラクターに共感を覚えるだろう。そんなナン丸と因習に縛られた幸子の間に芽生える淡いロマンス、能力を欲望を満たす道具として使って町を追われた幸子の兄・東丸高志(上杉柊平)の苦悩、そして素顔を隠して暗躍するミステリアスな丸神の里の次期当主・丸神頼之(山田孝之)が抱えた深い闇など個性的なキャラクターが織りなす多彩な人間ドラマも見ごたえがある。
ナン丸役で主演を務めるのは、大河ドラマ「どうする家康」の徳川信康役で話題を呼び、2025年度前期の朝ドラ「あんぱん」への出演が発表され注目を集めている細田佳央太。強大な力を手にしても常に普通の若者としての等身大な姿をナチュラルに演じている。ヒロインの幸子役は、映画『ソロモンの偽証』(15)で日本アカデミー賞ほか多くの新人賞を受賞した若き演技派・藤野涼子。故郷や家族に愛憎を抱く複雑な少女を熱演し、切なさがにじんだ演技で本作のドラマを牽引する。幸子の兄・高志役に『ディア・ファミリー』(公開中)や実写版「幽☆遊☆白書」など映画、ドラマで話題作への出演が続く上杉柊平、そして頼之役で山田孝之が出演。山田は特殊メイクで素顔をほぼ封印し、声や繊細な振り付けで丸神の里のキーパーソンを見事演じきっている。ほかにも個性派俳優としてジャンルを問わず活躍中の三上博史、瀬々敬久監督の『菊とギロチン』(18)に主演し数々の賞に輝いた木竜麻生ほか個性派、実力派が集結した。
そんな本作を監督したのが瀧悠輔だ。「アラサーちゃん無修正」(テレビ東京)で監督デビューした瀧監督は、堤幸彦監督に師事し「SPEC(スペック)~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」などで監督補を担当。師匠譲りの絶妙なハンドリングで、ミステリアスなドラマを牽引する。Netflixで配信された瀧監督のヒット作、坂元裕二脚本の『クレイジークルーズ』(23)でも見せたVFXの妙味も健在で、黒い球体やその圧倒的な破壊シーン、美しくも怖ろしげな幻想シーン、どこか違和感漂う丸神の里のロケーションなど要所でエッジの効いたビジュアルを作りだしている。特殊メイクは特殊メイク・造形工房「自由廊」を主宰して映画やドラマ、広告など幅広く活躍しているJIROが担当。頼之の特殊メイクや人体破壊など、衝撃的見せ場を盛り上げた。もともと本作は、瀧監督と「ガンニバル」を手掛けた本作の山本晃久プロデューサーが10年前から構想していた企画だけに、原作の魅力をしっかり継いだ理想的な形で完成した。
排他的な集落でいにしえより密かに受け継がれた因習など、タブーな題材を扱いながら一級のエンタテインメントとしてまとめ上げた本作。“超常ミステリー”と銘打たれているとおり、謎解きのおもしろさや爽快感、さらにはアクション、スペクタクルへと発展するジェットコースターのような展開にきっと唸らされるだろう。
文/神武団四郎