江口のりこ、内田慈、古川琴音が三姉妹で競演する『お母さんが一緒』演技派俳優たちのアンサンブルが生みだすヒリヒリ感と笑いのハーモニー
優等生の姉と比べられ続けてきた次女を体現する内田慈
そして仕事も男性関係もルーズな愛美役は、原作舞台から続投した名バイプレーヤーの内田が務めた。愛美はいつも成績のよい弥生と比べられて悔しい想いをしてきた次女だ。内田は、本来は明るく気さくな性格の愛美を、ふり幅大きく演じている。
内田は主演作『あの子の夢を水に流して』(22)で、生後間もない息子を亡くした母親のやるせなさや喪失感を、淡々とした佇まいで余すことなく表現した。そして『下衆の愛』(16)で枕営業をする売れない女優役でスゴ味のある演技を見せたかと思えば、『決戦は日曜日』(22)で政治家の選挙演説事務所の私設秘書を飄々と演じたことも。役柄と彼女自身がシンクロすることで生みだされる“説得力”には思わず引き込まれるが、『お母さんが一緒』でも口論のさなかに愛美が心に抱えた闇を放出。その演技を越えたせつない涙にじーんとさせられる。
家族の緩衝材的存在の三女を魅力たっぷりに演じる古川琴音
最後となる古川が担当したのは、勝手ばかり言う姉2人を冷めた目で見つめる清美役。面倒な家族のとりなしをしつつも、突然の結婚報告で姉たちを困惑させる三女をキュートに演じた。
古川はSixTONESの京本大我と共演した『言えない秘密』が現在公開中だ。こちらはアジアで大ヒットした台湾映画の日本リメイクで、この作品が恋愛映画での初のヒロイン役となる古川は、ピアノを弾くことが大好きな雪乃をミステリアスに演じている。一方、今泉力哉監督作『街の上で』(21)では古本屋の店員に扮し、主人公と不思議な友情を築く女性を好演。小さい頃にピアノとバレエを習っていたという古川は立ち姿が美しく、クラシカルな雰囲気と共に“人柄の温もり”のようなものが演技に滲む。『お母さんが一緒』で演じた役柄はそんな古川にぴったりのキャラクターで、母親や姉たちへの不満を心に秘めながらも家族の緩衝材となる大切な役どころを体当たりで演じている。
一緒に過ごした時間の分だけ家族の歴史は積み重なり、“いちばん近い他人”であるからこそ、お互いへの不平や不満も少しずつ溜まっていく。そんな家族のビターな問題が、江口、内田、古川の演技派3人による絶妙なアンサンブルでユーモアを交えて描かれることで、ハラハラしながらも最後は笑ってほっこりできる人間賛歌に仕上がった。
「ネルソンズ」の青山フォール勝ちが3人に負けない存在感を放つ!
また、特筆すべきは本作の重要人物を演じたお笑いトリオ「ネルソンズ」の青山フォール勝ちの怪演だ。清美の彼氏タカヒロとして今回の大騒動を巻き起こす一因となるが、青山による人間味あふれる実直で朴訥な演技が生みだす笑いが、ヒリヒリ感満載の人間ドラマでひと息つかせる一助となったことは間違いない。
「やっかいだけれど、やっぱり愛おしい」そんな家族の普遍的な姿を映す『お母さんが一緒』。橋口監督の鋭くも温もりある人間観察が冴えわたる傑作ホームドラマは、劇場で堪能してほしい。
文/足立美由紀