『インサイド・ヘッド2』で来日中!ピクサーの重要人物、ピート・ドクターのキャリアがすごすぎる
知らない作品はない!ピート・ドクターのすごすぎるキャリア
ここからは、ユニークで魅力あふれる物語を生みだしてきた、ドクターの経歴を見ていこう。彼は、カリフォルニア芸術大学(カルアーツ)でキャラクター・アニメーションを学んだあと、1990年、ピクサー・アニメーション・スタジオに入社。ピクサーには、ストーリーを練り上げたり、効果的でないシーンを分析したりする、ブレーン・トラストと呼ばれるチームが存在する。メンバーに求められるのは物語を語る才能だ。当初のメンバーは5人で、ドクターはそのなかの1人だった。
ピクサー・スタジオ、そしてドクターにとって、記念すべき特別な作品といえば、やはりピクサー初の長編アニメーション映画『トイ・ストーリー』(95)だ。世界初の全編3DCG長編アニメーションでもあった本作で、ドクターは監督のジョン・ラセターと共に、ストーリーやキャラクター作りに加えて、スーパーバイジング・アニメーターも務めた。
おもちゃの仲間と彼らが大好きな少年アンディの物語。人間味を与えられたおもちゃたちの視点から、物語が語られるという設定がユニークで、その年最高の興行収入を記録しただけでなく、感動的なストーリー展開と表情豊かなキャラクターが批評家たちからも絶賛を浴びた。ドクターは本作ですでに、スクリーン上でキャラクターの繊細な感情を表現する手腕を発揮。世界中の人々に愛された『トイ・ストーリー』は、その後シリーズ化し、4作目まで製作された。
ドクターが長編映画監督デビューを果たした『モンスターズ・インク』(01)は、人を怖がらせることが仕事の毛むくじゃらのモンスター、サリーと、人間の女の子ブーの思いがけない友情を描いた笑いと感動の物語だ。ラセターから「自分がやりたい企画」を考えるように求められたドクターが、“クローゼットに隠れたおばけの話”というアイデアをひらめいたことから生まれた作品である。本作は、ラセター以外が監督を務める初のピクサー映画でもあり、公開当時のドクターの年齢は弱冠33歳。相当なプレッシャーがあったはずだが、自身が原案を担当した『トイ・ストーリー2』(99)を抜き去り、世界興収5億ドルを超える大ヒットとなった。ちなみに、本作でドクターは日本食レストランの寿司職人の声を演じている。
29世紀の荒廃した地球を舞台に、感情が芽生えたゴミ処理ロボットの恋と友情を描いたSFストーリー『WALL・E ウォーリー』(08)では原案を担当。第81回アカデミー賞では、ピクサー作品として過去最多の6部門でノミネートされ、長編アニメーション賞を受賞した本作の翌年に公開されたのが、ドクターの長編監督作品2作目であり、ピクサーにとって『トイ・ストーリー』から数えて10作目の長編となる『カールじいさんの空飛ぶ家』(09)。
最愛の妻を亡くした老人カールが、都市開発によって、妻との思い出がつまった家の立ち退きを要求され、無数の風船を家に結びつけて、家ごと冒険の旅に出る。アニメーション映画でありながら、主人公は人生終盤の78歳のがんこで無口なおじいさん。旅の相棒は8歳の少年ラッセルという年の差70歳のコンビも類を見ない設定だった。
キャラクターたちの感情をとことん掘り下げ、人間の生き方をユニークな視点から見つめ直す物語は、ドクター作品の真骨頂。本作は第82回アカデミー賞の長編アニメーション賞を受賞したうえに、実写映画もすべて含めた最優秀作品賞にもノミネートされたことで話題を集めた。
ちなみに本作で、カールじいさんの亡き妻エリーの少女時代の声を演じたのは、ドクターの娘であるエリザベス・ドクター。後に彼女が『インサイド・ヘッド』誕生のきっかけになったことを思うと、感慨深いものがある。
ピクサー長編アニメーション20周年記念作品でもあった『インサイド・ヘッド』以来、5年ぶりにピート・ドクターがメガホンをとり、原案、脚本も手掛けたのが『ソウルフル・ワールド』(20)だ。ドクターが「23年の歳月をかけて製作した」とコメントした本作は、ジャズ・ピアニストを夢見る音楽教師のジョーが、ある日、人間が生まれる前のソウル(魂)の世界へと落下してしまい、そこで出会った人間嫌いのソウル・22番と共に地上に戻るために奮闘する物語。
『インサイド・ヘッド』で“人間の感情”の不思議さを見つめたドクターが、さらに奥深い“ソウル(魂)”という深遠なテーマに挑み、「あなたにとっての人生のきらめきとはなに?」と観る者に優しく問いかけるハートウォーミングかつ野心作ともいえる。
列挙すればきりがないほど、数多くの名作に携わってきたピート・ドクター。現在はピクサーのすべての映画を監修するなど、クリエイティブ面のトップとして活躍し続けている。ピクサー創業当初から作品づくりに深く携わり、スタジオの発展と共に歩んできたドクターは、キャラクターに魂を吹き込み、なによりもストーリーを大切にするというピクサーの哲学を体現する存在だ。彼が率いるピクサーのさらなる快進撃を今後も期待したい。
文/石塚圭子