実録ドラマに陰謀論が絡む都市伝説、衝撃のトンデモSFまで…『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』とあわせて観たい、月面着陸を題材にした映画たち
19世紀英国の科学者たちが月面を冒険する『H.G.ウェルズのSF月世界探検』
フェイク映像作成のほか、フェイクと中継映像の入れ替えなど二転三転する展開も魅力の『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』。月を絡めたヒネリを効かせた個性派作を紹介したい。『H.G.ウェルズのSF月世界探検』(64)は、19世紀の月旅行を描いた冒険もの。ヘリウムを使った反重力混合物を塗った宇宙船で月に飛んだ英国の科学者たちが、月の地底で月人セレナイトたちに遭遇する。月面に降り立った国連宇宙船の飛行士がボロボロのイギリス国旗を発見するオープニングや、英国人が持ち込んだ風邪により免疫を持たない月人が絶滅するなどユニークなアイデアも楽しい一本。視覚効果とデザインはSFXのパイオニア、レイ・ハリーハウゼンが手掛けている。
ナチス残党が月に帝国を築いていた『アイアン・スカイ』
『アイアン・スカイ』(12)はアポロ17号以来46年ぶりに月に向かったアメリカ人が、ナチスと出会う物語。敗戦前に宇宙ロケットで月に向かったナチスの残党たちが独自の帝国を築き上げ、地球侵攻の準備を進めていたという奇想天外な作品だ。月にそびえ立つ基地のスケール感、地球に進軍するクラシカルな宇宙艦隊など、低予算を感じさせないスペクタクルは圧巻!核戦争で地球は壊滅状態になり、生き残った人々が暮らす月面基地で新たな争いが勃発する続編『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』(19)も製作された。ほかにも、暴力と腐敗が蔓延する月の居住区で女殺し屋が暗躍する『ティコ・ムーン』(97)、月面基地の任務から逃れられない男を描いたサイコ風サスペンス『月に囚われた男』(09)など月を舞台にした映画には個性派作が少なくない。
三日月から満月へ、古くから月の満ち欠けは人に影響を与えるといわれてきたが、映画の世界でも月はロマンチックな気分にさせたり、狼男を呼び起こすなど感情をかき乱す存在として使われてきた。そんな月を目指す人々を描いた『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は、決定的瞬間のフェイク作りだけでなく、反目していた男女が真実の愛に目覚める姿を描くロマンチックコメディとしても楽しめる。人類初の月面到着の裏側で繰り広げられた大騒動を、スクリーンで味わってほしい。
文/神武団四郎