新キャプテン・アメリカを継承する意味とは?「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で描かれたファルコン=サム・ウィルソンの葛藤と決意

コラム

新キャプテン・アメリカを継承する意味とは?「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で描かれたファルコン=サム・ウィルソンの葛藤と決意

スティーブの意思と精神を守るため、キャプテン・アメリカになることを決意

黒人がキャプテン・アメリカを継いでいいのかと思い悩むサムを、バッキーはイザイア・ブラッドリー(カール・ランブリー)という人物のもとへ連れて行く。イザイアはスティーブが氷の中で眠っている間に、政府が複製した超人血清によって生みだされた黒人のキャプテン・アメリカであり、1950年代に活躍し、当時暗殺者として暗躍していたウィンター・ソルジャーと戦ったこともあった。

黒人のキャプテン・アメリカとしてアメリカ政府に利用されたイザイア・ブラッドリー(「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」)
黒人のキャプテン・アメリカとしてアメリカ政府に利用されたイザイア・ブラッドリー(「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」)[c]Everett Collection/AFLO

イザイアと出会ったことで、超人血清を精製するにあたって黒人に人体実験を行っていた過去があったことをサムは知ることになる。これは、かつてアメリカで本当にあった「タスキギー梅毒人体実験」と呼ばれる人種差別事件を基にしており、原作となったコミックス「キャプテン・アメリカ:トゥルース」ではその残酷な実験内容も描かれている。

盾の重みとその意味を噛みしめるサム(「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」)
盾の重みとその意味を噛みしめるサム(「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」)[c]Everett Collection/AFLO

正義の象徴であるキャプテン・アメリカの称号が政府の便利な道具として利用され、歴史の闇に葬られていた黒人兵士に対する残酷な事実にも直面。超人血清を悪用するフラッグ・スマッシャーズによる社会不安も蔓延するなか、キャプテン・アメリカの名が地に堕ちていくのを止めようと、サムはバッキーと共に立ち上がる決意をする。そして、スティーブが築き上げてきた高潔な精神を守り、イザイアに課せられていた負の遺産を払拭するため、自身がキャプテン・アメリカになる必要があることを理解する。

共に困難に立ち向かう決意をするサムとバッキー(「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」)
共に困難に立ち向かう決意をするサムとバッキー(「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」)[c]Everett Collection/AFLO

本作の物語は、キャプテン・アメリカという存在の重要性、その重さが、移民問題や人種差別など現実のアメリカ社会が抱える課題とリンクさせることで構築されている。そして、超人血清に頼らず、生身の人間として能力の限界に挑むように身体を鍛え上げるサムが、新たなキャプテン・アメリカのスーツに身を包み、その象徴たる盾を継承。平和を望み困難な道を歩もうとする彼の行動と強い思いによって、いまの社会にどんなキャプテン・アメリカが必要であるかを示していた。

【写真を見る】「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で新たにキャプテン・アメリカになる決意をしたサム・ウィルソン
【写真を見る】「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で新たにキャプテン・アメリカになる決意をしたサム・ウィルソン[c]Everett Collection/AFLO


「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」での戦いを経て、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』では新たにキャプテン・アメリカとなったサムの新たな活躍が描かれていく。ハリソン・フォード演じるサディアス・ロス将軍はアメリカ大統領に就任しており、さらにレッド・ハルクへと変身することも明かされている。アメリカ大統領も絡んでいくなか、キャプテン・アメリカことサムの前にはどんな困難が待ち受けるのだろうか?これまでの「キャプテン・アメリカ」シリーズと同様に、ある種の社会性とシリアスさを感じさせる物語の幕開けを期待して待ちたい。

文/石井誠

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