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映画『ナミビアの砂漠』を徹底レビュー!「悔しみノート」の梨うまいが“自分を語らない主人公”が抱える果てなき孤独という名の砂漠に迫る

コラム

映画『ナミビアの砂漠』を徹底レビュー!「悔しみノート」の梨うまいが“自分を語らない主人公”が抱える果てなき孤独という名の砂漠に迫る

『恋する惑星』の主人公、フェイとの共通点と圧倒的な違い

奇妙な魅力を放つ彼女から、私はウォン・カーウァイ監督『恋する惑星』(94)の物語後半の主人公、フェイ(フェイ・ウォン)を連想した。舞台は香港の重慶マンション。その一角の軽食屋でバイトをするフェイは、ママス&パパスの「カリフォルニア・ドリーミン(夢のカリフォルニア)」をいつも爆音で聴いていて、心ここにあらずといった感じで働いている。そして店の常連である警察官に恋をした彼女は、彼の部屋へ密かに侵入し、元カノの色が濃く残る住まいを勝手に模様替えして大胆に自分の世界へと塗り替えていくのだが、この行動はあまりにもぶっ飛んでいる。だけど、「だってこうしたかったんだもん」と言わんばかりの彼女のピュアな表情に、腹が立つどころかキュンとしてしまう。

『恋する惑星』との共通点にも注目!
『恋する惑星』との共通点にも注目![c]2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

カナとフェイ、この二人に共通するのが、その身体から匂い立つ“自由”と“奔放さ”だ。捉えどころがないからこそ、追いかけたくなってしまう。人の話を聞いていないところも、自分の欲求に素直なところも、長い手足をぷらぷらさせる歩き方まで似通っている。ただ、彼女たちの“自由”は、似ているようでちょっと違う。フェイは、どこへでも行けるし、どこでも彼女の世界を作って暮らせる。一方カナは、どこへでも行けるけど、どこへ行っても何もない。

カナの自由は孤独と一体で、砂漠のかたちをしている。これまでの青春映画で描かれてきた息の詰まる閉塞感とは真逆の、どこまでもだだっ広く続く果てしなき孤独。湿った自意識に足をとられるようなものではなくて、自分の心すらカラカラに乾いて、なにも感じない。感じないように蓋をしてきて、開け方が分からなくなっているのか。そして焦燥感に駆られて、無意識のうちにオアシスを求めて彷徨うのだ。偶然にも、『恋する惑星』の原題は『重慶森林』であり、『ナミビアの砂漠』と対を成しているように見える。

無味乾燥なやり取りが心をカラカラにする

心をカラカラにして喋らないといけない場面があるのは非常によく分かる。彼女が働く脱毛サロンなんかは、その最たる例だ。

劇中でカナが言っていた通り、エステ脱毛では永久脱毛はできないことぐらい、ちょっと調べれば誰にでも分かる。でも、脱毛サロンのお姉さんたちは決してその事実を口にしない。その代わり永久脱毛できるとも言わない。嘘にならない範囲で、通い続ける羽目になるエステ脱毛のコースへと誘導してくるのだ、カラッカラの瞳で。

不毛なやり取りの繰り返しでカナの心はすり減っていく
不毛なやり取りの繰り返しでカナの心はすり減っていく[c]2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

不毛なやり取りであることは誰よりもお姉さんがご存じなのである。相手がなんにも知らない情弱かそうでないかはすぐ分かるだろう。それでも仕事だから決められた台詞を吐くのだ。そしてもし相手が狙い通りの情弱で、「じゃあエステ脱毛コースにしようかしら」と言ったところで「あーあ、馬鹿だなあ」と思うだけなんだろう。ご苦労な仕事であることよ…。


私には絶対無理だな、とバービー人形みたいにつるつるなお姉さんのうなじを見ながら思った。脱毛と縁がない皆様にはいまひとつピンとこないだろうか。言うなれば、たまにしか行かないショッピングモールで、会計の際に店員さんから「今ならクレジットカードを作るとすぐに使える500円分のポイントが貰えますがいかがですか?」とゼロハート早口で説明されるあの時間と同じです。

中身のないやり取りは当事者にも影響を与えていく
中身のないやり取りは当事者にも影響を与えていく[c]2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

無味乾燥なやり取り。スーパー砂漠タイム。端から聞いてりゃ可笑しいが、砂漠タイムを繰り返す当事者はたまったもんじゃない。自分の考えも、アイデンティティもはじめから無かったみたいに振る舞って。砂で出来た自分の輪郭がサラサラと流れ消えていく感覚。

気が付いたらオリックスの群れはいなくなってしまいました。風に水面が揺れています。

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