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ブックデザイナー・祖父江慎が『八犬伝』から受け取ったメッセージ「お上を恐れずに楽しい人生を送るための、クリエイターたちの闘い方はいまも昔も同じかも」

インタビュー

ブックデザイナー・祖父江慎が『八犬伝』から受け取ったメッセージ「お上を恐れずに楽しい人生を送るための、クリエイターたちの闘い方はいまも昔も同じかも」

江戸時代に、28年という異例の長期連載を経て、全98巻、106冊で完結した小説「南総里見八犬伝」の物語と、作者である滝沢馬琴の創作に向き合う姿を、“虚”と“実”、2つの世界を交錯させながら描く極上のエンタテインメント映画『八犬伝』(公開中)。馬琴役の役所広司、馬琴の友人で画家の葛飾北斎役の内野聖陽ら日本映画界が誇る豪華キャストの競演でも話題を集めている。

馬琴の「南総里見八犬伝」といえば、完成から180年以上が経ったいまでも、世代を超えて多くのファンに愛され続けている大ヒット伝奇小説。長年にわたり、ブックデザインの第一線で活躍し、展覧会のアートディレクションも手掛ける祖父江慎もまた、「南総里見八犬伝」の底知れぬ魅力にハマってしまった1人だ。

「『南総里見八犬伝』という本来は一つのテキストが、時を経て多様な読者に向けてどう変化していったのか」

「南総里見八犬伝」では、8つの珠を持つ8人の剣士が壮絶な戦いに挑む
「南総里見八犬伝」では、8つの珠を持つ8人の剣士が壮絶な戦いに挑む[c]2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

江戸期に出版された「南総里見八犬伝」(全106冊)から、明治・大正・昭和・平成・現在まで脈々と出版され続けている「八犬伝」関連の書籍まで、変化する出版物の観察者として知られ、もはや“研究者”の域に達している祖父江に、馬琴が書いた「南総里見八犬伝」のすごさや時代背景、今回鑑賞した映画『八犬伝』の感想について、たっぷりと話を聞いた。

本棚には「南総里見八犬伝」の初版から、滝沢馬琴の日記など関連書籍がズラリ
本棚には「南総里見八犬伝」の初版から、滝沢馬琴の日記など関連書籍がズラリ所蔵/祖父江慎

初版の「南総里見八犬伝」の表紙には犬がいっぱい!
初版の「南総里見八犬伝」の表紙には犬がいっぱい!所蔵/祖父江慎

「『八犬伝』にハマったのは、20年ほど前から」と祖父江は振り返る。「僕は、時代と共に変化していく印刷物や、読者に併せて表情が変わってしまう“同じ物語”の多様性に興味があるんです。“同じ本好き”としても有名です(笑)。もともとは、出版における書体や文字組の歴史を探るために、夏目漱石の『坊っちゃん』の書籍研究をしていたんですが、『坊っちゃん』が発表されたのは、100年ちょっと前、すでに金属活字の時代だったので、だいたいはすぐに揃っちゃったんです。なので、今度は活字ができる前の時代…ちょうど木版印刷での出版がにぎやかになる天保の時代からの変化を確認してみたくなって、現在でも人気のある『八犬伝』がいいんじゃないかなと思って集めはじめたんです」。

【写真を見る】祖父江慎が所蔵する「南総里見八犬伝」の挿絵もすごい…妖犬・八房が敵の首を獲ってきたシーンも!
【写真を見る】祖父江慎が所蔵する「南総里見八犬伝」の挿絵もすごい…妖犬・八房が敵の首を獲ってきたシーンも!所蔵/祖父江慎

「中編小説の『坊ちゃん』は薄い本だったので、次は違うタイプの長編ものにしようという意図もありました。『南総里見八犬伝』が出版されたのは、まだ金属活字もなくって整版印刷の時代なんですね。当時は、振り仮名はふってあるけど、読点も改行もカギカッコもない。主語もあまりないうえに実名ではなく字(あざな)で呼び合うから誰が誰だかわからない。読みにくいんです。28年という長い連載の間には出版社も変わるし、あまりにも長いから、大衆・子ども向けの短いバージョンの本もたくさん出ているんです。なにをカットしてどんなふうに短くされたのか、ということにも興味があるんです。『南総里見八犬伝』という本来は一つのテキストが、時を経て多様な読者に向けてどう変化していったのかを確認してみたくなったのが『八犬伝』にハマったきっかけです」。

子ども向けに短くまとめられた「八犬伝」も発見
子ども向けに短くまとめられた「八犬伝」も発見所蔵/祖父江慎

「初刷には、牛同士を戦わせる賭博シーンの挿絵があったんですが、天保の改革で検閲が厳しくなり、増刷からは真っ白いページになるなど、いかに幕府の眼から逃れて出版し続けたのか、とかも本を通して実感できます。日本の出版事情が丸わかりですよ(笑)」。

「新八犬伝」は「坂本九さんが黒子姿で登場して、物語を講談調にテンポよく爽快にで解説してくれるのが、めちゃくちゃよかった」

映画『八犬伝』を撮った曽利文彦監督が少年時代に夢中になり、映像作家としての原体験にもなったというNHKの連続人形劇「新八犬伝」は、祖父江も大好きだったとのこと。

NHKの連続人形劇 「新八犬伝」の小説版
NHKの連続人形劇 「新八犬伝」の小説版所蔵/祖父江慎

「坂本九さんが黒子姿で登場して、物語を講談調にテンポよく爽快に解説してくれるのが、めちゃくちゃよかったんですよ。人形の出来もすばらしくて、八犬士それぞれの性格がきちんと棲み分けされてて、動きも時に人形劇的で時に文楽っぽくと、バラエティ豊かで目が離せませんでした。今回の映画を観ていても、伏姫の首にかかる数珠飾りから、8つの珠が解き放たれて、空に飛んでいくシーンや、巨大な怨霊の姿になった玉梓が上から八犬士を見下ろしているシーンなんかは、ちょっと人形劇を思い出しましたね。人形劇の玉梓って、すんごく怖かったんです」。


怨念で里見家を末代まで祟る…八犬士最大の敵の玉梓(栗山千明)
怨念で里見家を末代まで祟る…八犬士最大の敵の玉梓(栗山千明)[c]2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

といっても、祖父江が映画を観た時の印象は、いわゆるノスタルジックなものではなかったという。「それよりも、『南総里見八犬伝』の物語のパートがどんどん後半になるにしたがって、マーベル・コミックスの『スパイダーマン』とかのスーパーヒーロー映画を観ているような気持ちになっていきました。とにかく映像にすごく力が入っていて。クライマックスの玉梓の巨大な顔も、炎の塊になっている姿の映像も、現代のVFX技術じゃないとできない表現ですね」。

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