漫画家・冬虫カイコが、『イマジナリー』の世界を表現!少女に近寄るテディベアの“悪意”に「絶対にわかりあえない邪悪な存在」
昨年日本でも大ヒットを記録した『M3GAN/ミーガン』(23)や『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(24)など、ホラー/スリラー映画を中心に斬新な作品を生みだし、世界中の映画ファンを魅了しているブラムハウス・プロダクションズと、「ソウ」シリーズのライオンズゲートとの“最恐タッグ”が放つホラー映画『イマジナリー』が11月8日(金)にいよいよ日本公開となる。
夫と継娘の2人と暮らしながら、毎晩見る悪夢にうなされている絵本作家のジェシカ(ディワンダ・ワイズ)。そんな環境を変えようと、一家で彼女が幼いころに暮らしていた家へと引っ越してくる。その家の地下室で、古びたテディベアを見つけた次女のアリス(パイパー・ブラウン)は、“チョンシー”と名付けて友だちになる。アリスはチョンシーとの“宝探しゲーム”に興じていくが、無邪気な遊びはいつしか邪悪な行為へとエスカレートしていく。執拗なほどチョンシーに執着するアリスだが、そんななか、ジェシカたちは、不可解な現象に見舞われるようになる。その後、知られざる衝撃の真実が明かされることに。
テディベアを巡って繰り広げられる恐怖を描く本作を、人喰い人魚を描いた異類譚「みなそこにて」などの作品を手掛ける漫画家の冬虫カイコがいち早く鑑賞し、描き下ろしイラストで世界観を表現!イラストに込めた想いや、本作がホラーファンや映画ファンの心を鷲づかみにするポイントなどを語ってもらった。
※以下、物語の核心に触れる部分は、「●●●●」と伏せ字で表記いたします。
「ひたひたといやな予感が迫ってくる緊張感がとてもよかったです」
ミステリアスな作風や、ヒリヒリするような少女たちの心理描写が冴える作品を手掛けてきた冬虫は、まず『イマジナリー』で描かれる「“なにかいる気はしても正体は見えない恐怖”に注目した」と明かした。「(何者かが)夜や暗がりの中で襲ってくるのではなく、白昼に子どもの一人遊びを通してなにかの“悪意”が近づいてくるところ。ひたひたといやな予感が迫ってくる緊張感がとてもよかったです」。
その“悪意”の象徴となるのが、愛らしいテディベアという意外性こそ本作の肝である。少女アリスがチョンシーと名付けたデディベアについて、「かわいいテディベアではあると思うのですが、どこか埃っぽかったり黒ずんでいたり、中の綿が潰れてくったりしているように見えます」と、冬虫は指摘。「全体的に明るくかわいらしい色合いでまとまったアリスの部屋において、その古びた雰囲気が際立っていたのが不気味でした。最初はひとりぼっちの寂しさや人恋しさを抱えているのかと思っていましたが、そんなことはなく身勝手で残酷な存在でした」。
予告編や本編の前半では、次女アリスとチョンシーの不穏な関係が描かれるが、徐々にこの家に隠された秘密やジェシカの過去が関わっていくのが、本作の特徴ともいえる点。この物語の構成について冬虫も、「あくまでも主人公はジェシカで、チョンシーが執着しているのは●●●●というのがよかったと思います。アリスはチョンシーを大事な友達だと思っていたのに、絶対にわかりあえない邪悪な存在という感じでよかったです」と語る。
ジェシカを演じるのは、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(22)など話題作への出演が相次ぐディワンダ・ワイズ。継娘であるアリスやテイラーの良き母となろうとするも、上手くいかず空回りしてばかりの苦悩も描かれる。この継母と継子との関係の難しさについて冬虫は、「実の親にひどいことをされても愛情と期待を捨てきれない子どもたちの感情など、親子の姿がホラーのエッセンスとして丁寧に描かれていたように感じました。終盤はなんとか全員で幸せになってくれ…と思っていました」とかなり感情移入できたようだ。
「ホラー映画として怖がらせながら、人間の感情やドラマをきちんと描いてくれる」
そんな冬虫は、お気に入りの登場人物にテイゲン・バーンズ演じる長女テイラーを挙げる。継母ジェシカのことをよく思っていないテイラーは、些細なことでジェシカと衝突する、思春期まっただなかのキャラクターであり、少女の揺れ動く心情を生々しく描いてきた冬虫ならではのセレクトだ。
「最序盤はまあまあ非行少女なのかなという印象でしたが、ジェシカに対してたまに嫌味を言ってしまうことはあっても、薬やお酒の誘いは拒絶するし、年の離れた妹とけっこうちゃんと遊んであげるし、実母への情もちゃんと持っていて、根本的に愛情深いいい子だとわかりますから。後半はジェシカという大人に同行する子ども(と大人の狭間にいる若者)として、物語上でも大きな役割を果たしたキャラクターなのでは…と思います」。
本作の製作を手掛けたブラムハウス・プロダクションズの作品といえば、枠に囚われないクリエイティブで世界中の映画ファンを魅了している。冬虫は、そんなブラムハウス作品でお気に入りだと話すリブート版『ハロウィン』(18)と、本作に通底する「親子」というテーマの類似性を分析する。
「思い返すと『ハロウィン』も祖母と母と娘の三世代の親子が描かれた作品でした。作品の象徴でもあるマイケルの暴虐が爽快なくらいに描かれつつも、それに対抗するストロード家の女性たちのキャラクターが魅力的なところが好きです。ホラー映画として怖がらせながら、人間の感情やドラマをきちんと描いてくれるところが『イマジナリー』との共通点かもしれません」。