開催中の第37回東京国際映画祭ガラ・セレクションに選出された映画『雪の花 -ともに在りて-』(2025年1月24日公開)の舞台挨拶が行われ、松坂桃李、芳根京子、小泉堯史監督が登壇した。
吉村昭の同名小説を映画化した本作は、江戸時代末期の福井藩を舞台に、数年ごとに大流行して多くの人命を奪う疫病から人々を救おうと奔走した実在の町医者、笠原良策の姿を描く。松坂が主人公の笠原良策を、妻の千穂を芳根が演じ、良策を導く蘭方医の日野鼎哉には役所広司が扮している。
『居眠り磐音』(19)以来、約5年ぶりとなる時代劇。小泉組初参加となる松坂は「しっかりと本読み、リハーサルを重ねた上で現場に入ると、カメラがすでに据えてある。全編フィルムでの撮影。撮り直しがきかない緊張感が現場に漂っていました」と撮影を振り返り、高揚感もあったとし「いままで味わったことのない気持ちになりました」と充実感を漂わせる。実在の人物を演じることについては「良策という人物を体のなかに入れて現場に入ることが必要」とし、「良策を生きるということは僕のなかでは結構難しいことではあったけれど、キャスト、スタッフをはじめ、いろんな人たちの手を借りて演じることができました」と感謝した。
『居眠り磐音』で松坂と共演している芳根は「前回も時代劇。和装の松坂さんのほうが見慣れているので、いまのほうが不思議という現象が起きています」とニヤニヤ。続けて「前回(の役)は結婚する約束をしていたけど叶わなくて。今回(の役)は結婚できました。今度は最後まで支えることができてよかったです!」と、充実感を滲ませながら笑みを浮かべる芳根に、松坂も「こちらこそです!」と優しく微笑んでいた。
舞台挨拶の場は緊張し、撮影現場の方が落ち着くと話した小泉監督は、「二人はとてもすばらしかった。歴史上の人物を描くのは大変だけど、想像力を持って人物を立ち上げてくれた。難しいことをしっかりやってくれたので、それを現場で最初に見るのが楽しみでした。毎日の現場が楽しかったです」と松坂、芳根を絶賛。時代劇ブームが起きていることについてどう思うかとの質問には「歴史がここまでつながっていないといまの僕はいない。“時代劇”というくくりは特にない。歴史というものは、やはりいまの時代につながっているものだから」と答えた小泉監督は「時代劇は自由に撮れる」とも話していた。
本作の見どころについて松坂は「芳根さんが一段と輝くシーンがあります。芳根さんが疲労困憊のなか、ものすごい集中力で成し遂げたシーンです」とネタバレすることなくおすすめ。芳根は「3ヶ月ほど練習期間をいただいて、発表の場みたいな気持ちでした」と語り、「私自身、やっていて心が震えた瞬間がありました」と述懐。「終わった後、泣き崩れていたよね」と振り返った松坂は、「本当にすばらしかったです」と称賛。そのシーンについて芳根は「(練習をスタートした)初めの頃はセンスないのかも、と思っていたので、(撮り終わった瞬間に)監督の笑顔を見た時は心の底からホッとした覚えがあります」とうれしそうに報告していた。
最後の挨拶で松坂は「江戸時代に多くの命を奪った疫病から、無名の町医者が妻や恩師、友人、様々な人の手を借りて命を救った実話をもとにした作品です」と改めて作品を紹介。続けて「そのなかで描かれている愛や絆は、コロナの時代を経験したいまだからこそ、皆様に刺さるものだと実感しております」と力を込める。さらに本作の魅力として「小泉監督が撮った画と音が本当にすばらしくて。(映画を)観ている自分たちも、この自然のなかにいるかのように引き込まれます」とアピールし、自然も映画の味方にする小泉監督が描く『雪の花』の世界にも引き込まれてほしいと呼びかけ、イベントを締めくくった。
取材・文/タナカシノブ