『リング』『呪怨』『犬鳴村』…ホラーの大ヒットが“冬”に続出する深いワケとは
ホラー映画といえば、やっぱり“夏”というイメージを持っている人は少なくないだろう。ジメジメして暑い気候と背筋も凍るような恐怖体験はたしかに相性が抜群。でも意外なことに、お正月が終わったばかりの“冬”に公開されたホラー映画にこそ、社会現象級のヒット作や後世に語り継がれる傑作が数多く存在している。そこで本稿では、隠れた“ホラーの季節”の歴史を振り返りながら、この冬に公開される注目のホラー映画を紹介していこう。
Jホラーが牽引!冬にホラー映画が公開される理由とは?
日本の映画興行では昔から「春休み」「ゴールデンウィーク」「夏休み」「お正月」という4つの強力な書き入れ時があり、大人も子どももまんべんなく楽しめるようなエンタメ性の強い大作映画の多くがこれらの時期を狙って公開されやすい傾向にある。そのため、1990年代中盤に小学生の間で人気を博した「学校の怪談」シリーズのようなジュブナイル・ホラーが夏休みに公開される一方で、ターゲットが限定される“ガチで怖い”タイプの作品はそれ以外の時期に偏りがちになってしまう。
その代表格といえるのが、1998年の1月下旬に公開された『リング(1998)』と『らせん』の2本立て。その年の“お正月映画”として公開された作品は、ハリソン・フォード主演の『エアフォース・ワン』(97)やシリーズ化もされた『メン・イン・ブラック』(97)、そして言わずと知れた『タイタニック』(97)など。豪勢なハリウッド大作で盛り上がっていた映画館の空気を、正月第2弾として“貞子”を登場させて一変して見せた『リング』『らせん』は大ヒットを記録し、“Jホラー”というジャンルを確立することとなった。
それを機に“Jホラー=冬”が定着した2000年前後。『リング2』(99)と『死国』(99)、『リング0 バースデイ』(00)と『ISOLA 多重人格少女』(00)、『狗神』(01)と『弟切草』(01)、そして『仄暗(ほのぐら)い水の底から』(02)まで、東宝の邦画系劇場では毎冬Jホラー作品を公開。また、ほかの系列でも『富江 replay』(00)と『うずまき』(00)の2本立てや、『回路』(01)などが冬に公開された作品だ。元々お正月と春休みの間にはさまれて映画館が閑散としやすい時期に、定番ジャンルとして風物詩のようになったことがJホラーブームを大きく前進させたといってもいいだろう。
その後も清水崇監督の『呪怨』(03)や『輪廻』(06)、三池崇史監督の『着信アリ』(04)など、作品の規模を問わず冬公開となったホラー映画が多数。Jホラーブームが下火になった時期には一時的に途絶えていたが、『バイロケーション』(14)や『残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』(16)などの中規模作品を経て流れが復活。清水監督の『犬鳴村』(20)が興行収入14.1億円を記録する特大ヒットとなったことで、「恐怖の村」シリーズがスタートし、『樹海村』(21)、『牛首村』(22)と3年連続で清水作品が東映の正月第2弾を飾ることとなった。また2024年も、「第1回日本ホラー映画大賞」に輝いた下津優太監督の『みなに幸あれ』(24)がスマッシュヒットを記録した。
Jホラー作品ばかりを挙げてきたが、同じように書き入れ時を外して日本公開された海外のホラー映画も多数。デヴィッド・フィンチャー監督のサイコスリラー『セブン』(95)やギレルモ・デル・トロ監督の『ミミック』(97)、久々の続編が製作されることが発表されている『ファイナル・デスティネーション』(00)に、世界的なブームを巻き起こした『パラノーマル・アクティビティ』(10)など、いまなお多くのホラーファンから支持される傑作は、どれも1月から2月の冬の時期に公開されてきたのである。