【ネタバレレビュー】冒頭からサプライズすぎる…「ジークアクス」に期待する、新旧「ガンダム」の大きな橋渡し

コラム

【ネタバレレビュー】冒頭からサプライズすぎる…「ジークアクス」に期待する、新旧「ガンダム」の大きな橋渡し

ガンダムファンを驚かせる、分岐した「一年戦争」でのパラレルな世界線

本作の導入という形で、上映時間的にも前半を丸々を使い、マチュたちが住む世界の約5年前の出来事が描かれていく。
それは、いわゆる“正史”と呼ばれている「一年戦争」の歴史がとある事件によって分岐することになる、パラレルな世界の始まりとなっている。

これまでも「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」や「機動戦士ガンダム サンダーボルト」のように、一年戦争という事象を背景にしながらも、歴史解釈や異なる事件が起こるパラレルな世界は描かれてきた。しかし、本作の最大の特徴となるのは、「一年戦争にジオン公国が勝利した世界線」として世界観が構築されていること。そして、そのきっかけとなったのが、テレビアニメ「機動戦士ガンダム」の第1話で、アムロではなくシャアがガンダムに乗り込んだことが発端となる世界。ガンダムとホワイトベースをジオン軍が強奪した結果、連邦軍のモビルスーツ開発は進まず、一年戦争の展開が大きく変わっていく様子が描かれて行く。

事前に公開されたあらすじとまったく違う展開に、どよめきが起こった劇場も
事前に公開されたあらすじとまったく違う展開に、どよめきが起こった劇場も[c]創通・サンライズ

フィリップ・K・ディックの小説「高い城の男」は、第二次世界大戦で枢軸国が勝利し、アメリカが分割併合される未来を描いているが、そんな変容したあり得たかもしれない歴史改変を「ガンダム史」で行っていることは、ガンダムファンは大いに驚いたはずだ。いわゆる「架空戦史」ものといわれる手法は、ガンダムファンの視点からすると「その手があったか」と思わせる要素となっている。
ひとつの歴史のなかで描かれなかった戦線の戦いを世界観を共有しながら描く「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」や「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」のようなサイドストーリー、先にも挙げた、ほかの作家が独自の解釈で同じ歴史を別の視点から描くパラレルストーリーに続き、ありえたかもしれない歴史を描く「架空戦史」ものに踏み込んだことで、「ガンダム」シリーズに対する視点はさらに大きく広がったと言えるだろう。

新たな世代が「ガンダム」の“原点”に触れるきっかけとなる?

そうした設定だけでも驚かされるが、それ以上にインパクトがあったのが、「機動戦士ガンダム」の伝説となっている第1話「ガンダム、大地に立つ」を音楽や演出、タイミング、さらには安彦良和の作画までそのままトレースするという手法を採ることで、往年のガンダムファンはもちろん、令和の最新作のガンダム作品を観に来たファンの度肝を抜いたはずだ。

もちろん、「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」という作品が架空戦史であることを示すために、この「Beginning」のパートが作られており、マチュたちが活躍する世界の前段階となるよう、ジオン軍が連邦軍に勝利するように向かう物語が描かれているわけだ。しかし、そこには富野由悠季が書いた小説版「機動戦士ガンダム」を彷彿とさせる、これまで描かれなかった一年戦争的要素や、シミュレーションゲーム「ギレンの野望」などでのみ味わえる、ジオン軍が勝利した世界線に登場する赤いガンダム(キャスバル専用ガンダム)が盛り込まれており、ディープなガンダムファンも唸るあまりにもマニアックな要素が溢れすぎている。

テレビシリーズのどの話数を再構成しているのか…ますます本作への期待が高まっていく
テレビシリーズのどの話数を再構成しているのか…ますます本作への期待が高まっていく[c]創通・サンライズ

それらは、ガンダムファン的には「ニヤリ」とする部分ではあり、その解釈を巡ってファン同士で盛り上がれるポイントだ。だだし、その過剰ともいえるサービスのインパクトは、肝心のマチュたちのクランバトルの存在を薄めてしまっているように感じるのもまた事実である。
マチュたちの行く末よりも、架空戦記としての「ジオンが勝利した世界」の解釈にガンダムファンの話題が盛り上がってしまうのは、もともと意図したことだったのかが気になるところではあるが、サンライズではなくスタジオカラーだからこそできた、やり過ぎなくらい踏み込んだ世界観や映像であり、これを賛とするか否とするかも含めて、それが「ガンダム」というコンテンツを世代を超えて盛り上げるきっかけになっていることは間違いない。

さらに言うならば、様々な「ガンダム」が新作として作られてきたなかで、45年という年月が経てから「原点の偉大さを改めて感じさせる」という意味では、「Beginning」パートの意味は大きい。マチュたちが今度どんな戦いに身を投じていくかを想像しつつ、最初の「機動戦士ガンダム」(=ファーストガンダム)に触れなかった世代にも、あらためて原点に触れるきっかけになって貰えれる一作となってくれることを祈っている。


文/石井誠

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