『教皇選挙』でオスカー候補に!「ハリー・ポッター」に「007」、監督業でも活躍するレイフ・ファインズの多彩なキャリア
「ハリー・ポッター」に「007」、「キングスマン」など人気シリーズでも存在感を発揮
このように演技派としての地位を確立したファインズは、ヒューマンドラマ、社会派、ミステリー、コメディなど多彩なジャンルの作品に出演するが、とりわけ映画ファンを驚かせ、かつ幅広い世代に知られるようになったのが「ハリー・ポッター」シリーズのヴォルデモート卿だった。スキンヘッドに青白い肌、ヘビのような凹凸のない鼻を持つ悪の権化を、特殊メイクとCG加工、不気味で仰々しい身振り手振りも交えながら体現。世界中の子どもたちを震撼させた。原作を読んでいなかったというファインズは、原作者J・K・ローリングからの言葉で役のイメージを膨らませ、独善的で心が歪んだ“怪物”を自由に表現したという。
元々、役作りに具体的な人物を参考にすることはほとんどなく、脚本に書かれた役を理解し、自分のなかから創りだすと語っているファインズ。ヴォルデモートについても単なる悪ではなく、堕落した人間だと捉えており、そのようなアプローチによって唯一無二の存在感や説得力あるキャラクターがもたらされたといえる。
「007」シリーズには、ジュディ・デンチに代わる次期M役で『007 スカイフォール』(12)から『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(20)に出演。6代目ジェームズ・ボンドことダニエル・クレイグとも張り合えるダンディなMのキャラクターが話題を呼んだ。
同じく人気スパイアクションシリーズのプリクエル『キングスマン:ファースト・エージェント』では、表向きは高級紳士服テーラー、裏の顔は世界最強のスパイ組織であるキングスマンの設立者、英国貴族のオックスフォード卿役で主演。初代アーサーでもあるオックスフォードを、激しいソード&ガンアクションを交えて熱演した。人気シリーズではほかに、サバイバルスリラー『28年後...』(6月20日公開)にも参加。生きる屍が蔓延するディストピアとなった世界で、ファインズがどんな役どころで登場するのか気になるところ。
監督業では作家性あふれるアプローチで魅せる
映画監督という顔も持つファインズは、すでに3本の映画を手掛けている。デビュー作はシェイクスピアの悲劇「コリオレイナス」を題材にした『英雄の証明』(11)。かつて舞台でも演じた劇曲の設定を、現代の架空のローマに置き換えた戦争ドラマだ。ハードな戦闘描写などいま風アクションを盛り込みながら、台詞回しはシェイクスピアの原作のまま。映画的リアリズムと舞台的な大仰な表現を組み合わせた、舞台出身のファインズらしい異色作になっている。
続いては、文豪チャールズ・ディケンズと若き愛人の日々を描いた『エレン・ターナン ~ディケンズに愛された女~』(13)。フェリシティ・ジョーンズら俳優たちの繊細な感情表現を中心に構成され、陰影を強調した絵画のような映像など、凝った画作りにも圧倒される。
監督3作目『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』(18)は公演先のパリで亡命したロシア人ダンサー、ルドルフ・ヌレエフの半生を描く伝記映画。ヌレエフの激しい生き様に迫っただけでなく、ウクライナ出身の現役バレエダンサー、オレグ・イヴェンコを主演に起用し、華麗なカメラワークを用いながら見事なバレエシーンを映しだすことに成功している。舞台時代を含めて何度もロシアを訪れているファインズは、当地の文化や伝統に魅せられたと述べており、そのこともこの作品を作る原動力になったようだ。そして現在は、ロンドンで暮らす移民の青年を描いた新作も準備中とのこと。