金城武が『こんなはずじゃなかった!』で王道ロマコメにカムバック![最速レビュー!東京国際映画祭]
こういう茶目っ気たっぷりの金城武の姿を見るのは久しぶりだ。90年代に日本でもブレイクした彼だが、ここ数年は年齢とともに落ち着いた風貌を活かすようになり『レッド・クリフ』(08)での諸葛孔明をはじめ『捜査官X』(11)など、硬派な役が非常によく似合っていた。
そんな彼が久しぶりに(おそらくジョニー・トーが手がけた2002年の『ターンレフト・ターンライト』以来であろうか)挑んだロマンティック・コメディの相手役は、彼がデビューを果たした92年に生まれたチョウ・ドンユイというのも、なんだか時代の流れを感じる。チャン・イーモウの『サンザシの樹の下で』(10)でデビューを果たした彼女は、どこか垢抜けない、愛嬌たっぷりの表情を本作でも見せてくれる。この2人の魅力的なやりとりが、本作を王道のロマンティック・コメディへと危なげなく導いているのは一目瞭然だ。
食にうるさいワンマン社長のルーは、取引のために上海を訪れると、駐車場で自分の車にイタズラをしている女性シェンナンと出会う。それからも何度か彼女と顔を合わせ、そのたびにトラブルに巻き込まれるルーは、半径50m以内に近づくと警報が鳴る時計を渡すのである。
とまあ、序盤の展開は実にスピーディ。開始2分足らずでボーイ・ミーツ・ガールが果たされ、とんとん拍子に進められていく。ホテル買収に訪れたクラシックホテルで、出された料理の味に魅了されたルー。なんとそれを作っていたのはシェンナンだった、というお決まりの展開に安心感を覚えるほど展開が速い。
監督を務めたデレク・ホイは、編集マンとして活躍してきた新鋭だ。それだけあって、キレ味抜群の大胆な編集テクニックを駆使する。普通の会話の中にもジャンプカットを多用したり、スピード感溢れるカットバックや、真正面からのカットなど、脚本だけでなく映像でもしっかりと流れを作りだす。
その中でも、神経質なルーが即席麺を作る場面は実にコミカルで、時計のカットや目盛りにしっかりと測られた調味料、さまざまな行程に集中するルーをひとつの画面の中に3人同時に登場させ、あるタイミングでそれがひとつに集約する。ホテルの屋上で酔っ払っていたシェンナンが、彼の部屋のバルコニーに落下してくるのである。
男女の出会いを“落下”によって描かれるというのは、ビリー・ワイルダーの『七年目の浮気』でのモンローとトム・イーウェルの出会いの場面を想起させられる。そういえば“This is Not What I Expected!”というタイトルにも、どことなく50年代頃の小気味良いアメリカ製コメディ映画を思わせるものがある。
そして、何と言ってもクライマックスのガラス越しでの2人の会話シーンだ。互いのキャラクター性がすべて露わになった会話の応酬。リズミカルで、思わず笑みがこぼれてしまう。そこからの、ロマンティックすぎるラストシーンへと緩むことなく進んでいく。久々に、とても楽しい時間を過ごせるロマコメ映画とめぐり逢えた。【文/久保田和馬】