「四畳半神話大系」から『ペンギン・ハイウェイ』にまで通ずる“森見登美彦ワールド”の求心力
謎が謎を呼ぶ!エキセントリックな世界観
2010年に放送された「四畳半神話大系」はいわゆる “並行世界(パラレルワールド)”ものといえる。パッとしないキャンパスライフを送ってきた大学3回生の“私”が、「1年生からやり直したい!」という思いを叶え、新入生としていろいろな選択をやり直すが、結末はどれも納得のいかないものに。ついには、絶望した彼が無限に連なる四畳半の部屋へ引きこもり……というSF要素が強い作品で、『ペンギン・ハイウェイ』にもこうした不思議要素は満載。
まず、海も水族館もない街にペンギンが現れること自体が不思議で、お姉さんが投げた缶コーラがペンギンに変身するのをアオヤマ君が目撃したことから、さらに謎は深まっていく。そのほか、クラスメイトのハマモトさんが発見した謎の球体“海”の調査に、ペンギンを捕食する謎の生物の存在。それら全てが現実ではおよそ想像できない出来事でありながら、見事に絡みあっている。回収されない伏線がないと言ってよいほど、全ての謎が解けていく終盤は圧巻だ。
誰もが共感できる普遍的なテーマ
2013年と2017年に2度のアニメ化がされた「有頂天家族」。人間社会に紛れて暮らす主人公のたぬき・下鴨矢三郎が、同族のたぬきはもちろん、天狗や人間も入り乱れた波乱万丈なドラマを繰り広げる。化け術や神通力などの不思議要素がある一方で、突然父親を失った矢三郎らたぬき一家の人情物語が描かれるなど、誰もが共感しやすいテーマを組み込むことで作品のおもしろさを何倍にも際立たせている。
『ペンギン・ハイウェイ』もまた、謎解きが展開されながら、アオヤマ君とお姉さんの絆にも焦点が当てられる。お姉さんのミステリアスさに惹かれながらも、その気持ちをうまく説明できないアオヤマ君。そんな、お姉さんのために必死に行動する彼の姿に、誰もが覚えのある“初恋”の気持ちを想起させてくれるはずだ。
日常世界で巻き起こる超常現象を描きつつ、どこか親しみやすいクセのあるキャラクターや心温まるエピソードで観る者を魅了する森見ワールド。異色と言われる『ペンギン・ハイウェイ』にも、それらの特徴が受け継がれていると言えるだろう。この夏はぜひ、アオヤマ少年と共に森見作品独特の摩訶不思議な冒険世界を堪能してほしい。
文/藤堂真衣
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発売元:東宝、フジテレビ
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