山田孝之と佐藤健が語る『ハード・コア』のラブシーン秘話と2人の友情
佐藤はそう言われて少し照れながらも、本作のオファーを受けた理由についてこう答えた。「まず、作品の世界観に惹かれました。それと、左近は人を支えていく立場の役で、今回主に支える人物が兄貴。その兄貴を演じるのが山田孝之だと聞いて、ぜひやりたいと思いました」。実際に佐藤は、本作の出演を2秒で快諾したとか。
山田が「俺を支えたくなった?」とうれしそうに聞くと、佐藤は「いままでの共演作で、僕が支えてもらっていたので」と、山田に恩を感じていたことを明かした。例えば、佐藤の主演映画『バクマン。』(15)で、山田は佐藤が演じた漫画家をサポートする編集者役を、『何者』(16)では、佐藤演じる主人公の先輩役を演じてきた。
本作では、それぞれがキャラクターに合った官能的シーンにもトライした。山田は、電話を介した情事のシーンで苦労したとか。「そんなこと、したことがなかったので、音を出すのが難しかったです。ただハァハァ言っているだけではおもしろみがないので、擬似的に舐める音を出さなきゃいけなかったけど、舐めるものがないから、吸う音を出すしかなくて(笑)。でも、やっていくうちに、あの程度のことなら恥ずかしいとは思わなくなっていったので大丈夫でした」。
山田がもっとも衝撃を受けたのは、ホテルで首を締め合うという濡れ場のシーンだった。「そういう行為を好きな人がいるという話をよく聞きますが、俺は絶対にできない人なので、芝居とはいえ怖かったです。終わったあとで、これに快楽を感じる人たちは、真剣にヤバイなと思いました」。
佐藤は、オフィスでの乾いたラブシーンが強烈なインパクトを放つが、苦労したシーンについては別のシーンを挙げた。「火をつけるシーンが大変でした。熱すぎて全身大やけどするかと思いました」と激白。
右近と左近の兄弟は、正反対のタイプだが、根っこの部分では確かな絆でつながっている。
山田は「俺は男兄弟がいないから、すごくすてきだなと思いました」とうらやましがる。「もちろん兄弟じゃなかったら、一緒にはいない2人だとも思います。左近は、おふくろから『ちょっと右近の様子を見てこい』と言われて来たと言っていますが、きっと兄貴に会いたいんだろうし、兄弟だから心配もしていると思うんです」。
佐藤も「すてきな関係だと思いました」と同意見だ。「左近は、世の中に馴染めていない兄貴に対して『もっと上手いことやれよ。そんな生活をしてちゃダメだよ』と言いながらも、世の中に合わせて生きている自分に疑問を感じているんです。左近は左近で、兄貴に憧れがあるんじゃないかと思います」。
山田は「お互いに関係が近いからこそ、逆の方向へ行ったという面もあったのかな」とも考えたという。「左近は兄を反面教師にしていて、『兄貴みたいになっちゃダメだ』と思いつつも、放っておけない感じがあったのではないかと。どちらにしても男兄弟っていいなあと思いました」。
山田と佐藤の間に友情と信頼関係があったからこそ、右近と左近の切っても切れない兄弟の絆に、説得力を与えられたことは間違いない。また、山田と山下監督にとっては、長い間温めてきた企画なので、その熱い想いの結晶をぜひ受け止めてほしい。
取材・文/山崎 伸子