2020年代初のオスカー戦線はここから。トロント国際映画祭のラインナップを徹底解説!
2019年の、映画祭総決算もトロントで
1月のサンダンスから2月のベルリン、5月のカンヌ、7月のロカルノを経てトロントと、今年のインディペンデント映画の潮流を一気に見ることができる。今年度のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『パラサイト 半地下の家族』(2020年1月公開)もトロント国際映画祭で北米プレミアを迎える。ポン・ジュノ監督による不穏な家族劇は、第92回アカデミー賞国際長編映画賞の韓国代表に選出されている。
同じく第72回カンヌ国際映画祭で上映され好評を得たテレンス・マリック監督最新作『A Hidden Life(原題)』は、FOXサーチライト・ピクチャーズが配給、ペドロ・アルモドバル監督最新作は、アルモドバル作品の常連、アントニオ・バンデラスとペネロペ・クルスが主演の『Pain and Glory(原題)』の上映も行われる。1月のサンダンス映画祭でプレミアされた俳優シーア・ラブーフの自伝的作品『Honey Boy(原題)』や、観客賞を受賞した死刑執行を行う刑務所所長の物語『Clemency(原題)』、イラク兵拷問調査疑惑を追う特別調査官を演じるアダム・ドライバーと、ダイアン・ファインスタイン上院議員を演じるアネット・ベニングの迫真の演技が絶賛された『The Report(原題)』もサンダンス経由でトロントに上陸する。
日本映画の潮流を知り尽くしたセレクション
トロント国際映画祭と日本映画はつながりが深く、各映画祭での話題作や近日北米公開を控える作品などが上映される。第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門観客賞に輝いた『37 Seconds(原題)』は、脳性麻痺の女性の自己発見と成長を描く作品だ。ロサンゼルス在住のHIKARI監督の長編デビュー作で、Netflixでの配信が決まっている。アカデミー賞国際映画賞の日本代表にも選ばれた新海誠監督最新作『天気の子』(公開中)の上映もある。三池崇史監督の『初恋』(2020年2月公開)、黒沢清監督の『旅のおわり世界のはじまり』(19)、深田晃司監督の『よこがお』(公開中)といった、トロントではすでにお馴染みの人気監督たちの新作も上映される。
トロント国際映画祭の特異な点は、そのほかの国際映画祭とは異なり、コンペティション部門を持たないこと。その代わりが映画を観た観客が投票する観客賞である。トロント国際映画祭に来ると、この映画祭がたくさんのボランティア・スタッフによって運営されていることを実感する。朝から晩までテキパキと働くボランティアはトロント国際映画祭を愛する人たちによって運営され、その一挙手一投足からは、彼ら彼女らの映画愛が伝わってくる。ボランティアを含め、映画を愛するトロント国際映画祭の観客が選ぶ“観客賞”だから、アカデミー賞の作品賞まで上り詰めることができるのだろう。
文/平井伊都子