三池崇史と窪田正孝、2人の男が『初恋』に至る10年の道のり
三池監督が本作に寄せた「さらば、バイオレンス」という言葉にはどのような想いが込められているのだろうか。「僕たちが観てきた映画のなかのアウトローたちは、いまの時代では映画のなかでさえ住む場所を失っています。この作品のなかの彼らも歌舞伎町にかろうじて生き残っている、いわば絶滅危惧種に近い存在です。結果的に二人が恋に落ちるのは、自分を貫いた彼らがいたおかげ。彼らの死こそがこの二人の恋を生みだしています。いまは昔のようにしがらみなくアウトローたちを描くことはできませんが、彼らをなかったもののように扱うわけにはいかない。どうしようもない人間たちも、生き方によってはピュアな恋を生むこともできると思うんです。僕は彼らに哀愁や愛情を感じていますし、この映画の役柄、設定、そして演じてくれた人すべてが、かつて映画に登場した魅力的な男たちへのレクイエムのようなものですね」
原作のないオリジナル作品である本作。三池監督に手応えを尋ねた。「手応えって本当に難しい。世の中に完璧なエンタテインメントは存在しないと思っていますし、「よし、これだ!」と思ってしまったら、それは引退が近いことを意味するんじゃないかな。それでも好きか嫌いかという判断はできるわけで、そういう意味では大好きな作品です。オリジナル作品ではあるけれど、自分で作りだしたというよりこのキャスト、スタッフと出会えたから出来上がった作品だと思っています。彼らそれぞれの経験や運命みたいなものが、直接ではなくてもどこかに反映されていて、役や作品が膨らんでいったのだと思っています」
日本公開に先駆けて上陸した海外でも評価の高い本作。完成した作品を観た、率直な気持ちを窪田に聞いてみた。「これまでドラマ出演のほうが多かった僕にとっては、このような挑戦的な映画に久しぶりに出会えた喜びが大きく、役者冥利に尽きると思いました。ここまで“媚びていない”作品にはなかなかお目にかかれませんし、監督がおっしゃっていたように、絶滅危惧種になってしまった人たちにしかない魅力がしっかりと反映されていると思います。海外の映画ファンには、日本映画といえば往年の侍、ヤクザ、忍者が出るような映画というイメージがありますよね。そのジャンルの新作が海を越えて今回のような評価をしてもらえたことは、シンプルに凄いことだと思います。日本でも、こういうジャンルを懐かしいと感じる世代と、新感覚と思える若い世代、様々な世代の人に楽しんでもらえたらうれしいです」
三池監督にとって“窪田正孝”はどんな役者なのだろうか。「僕と彼の関係はあくまで監督と役者。頻繁にメールしたり電話したりはしません。窪田くんと同じ現場です、というスタッフに『よろしくって言っておいて』っていうくらいですよ。ただ、彼にとって必要な監督であり続けたいとは思っています。『窪田くんを主役にすると企画が通るから出てよ』みたいな関係にはなりたくありません。映画業界はそんなに広い世界じゃないから、お互いが必要な時には今回のように機会がやってくるんです。それこそ10年前のオーディションのように。あの頃はまだ窪田くんも若かったし、このまま役者を続けていいのだろうかと悩んでいました。でも、それが10年後、こうしてまた一緒に作品を作ることになるのだからね。監督は役者の人生の面倒をみる立場にはありませんが、出演してくれた人が『やってよかったな』と感じてもらえる作品に仕上げることには、全力を尽くしています。もちろん『こんな役者になってくれたらいいな』なんて想像することはあるし、心の奥で応援もしていますけどね」
取材・文/タナカシノブ