カンヌが絶賛!“美しき鬼才”グザヴィエ・ドランに人はなぜ惹き込まれるのか?<写真15点>
いま世界で最も注目される若手監督の一人、グザヴィエ・ドランの最新作『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』(公開中)。俳優としても活躍する現在30歳(3月20日で31歳)のドランは、家族との関係やセクシュアリティに悩む若者のリアルな感情を映しだす“美しき天才”と呼ばれる逸材。初めて英語作品に挑戦するなど監督としての転換点となるであろう本作に合わせて、唯一無二のドランの魅力をおさらいしたい!
カナダのフランス語圏・ケベック州モントリオール出身のドランは、幼少期から子役として活躍。独学で映画制作を学んだ彼は、19歳で主演・脚本・初監督を務めた『マイ・マザー』(09)が高評価を得て、一躍“カナダの神童”と呼ばれ熱い支持を集めることに。その後、次々と話題作を発表。フランス映画界を代表するマリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、レア・セドゥらの共演による、帰郷した余命わずかな息子とその家族のドラマ『たかが世界の終わり』(16)では、第69回カンヌ国際映画祭のグランプリに輝いた。
ドランは自身がゲイであることを公にしており、自らの経験を作品に反映することも多い。例えば『マイ・マザー』のような、セクシュアルマイノリティである息子とその母親の想いがすれ違っていく愛憎劇は、ドラン監督作のテーマの一つ。ゲイであるがゆえに抱える孤独を描くと同時に、思春期特有の苛立ちや、母や恋人への愛の渇望といった、誰もが一度は感じる普遍的な感情が切実に切り取られているのだ。
また、ドランの持ち味は繊細な心理描写だけではない。デジタル時代の現代に、数少ない“フィルム派”の一人である彼の、味わい深い映像はとっても印象的。『わたしはロランス』(12)の、空中に色とりどりの服が舞うファンタジックな描写や、『Mommy/マミー』(14)で見せる、インスタグラム風の正方形の画角を採用した演出などは見ものだ。さらに、ツボを押さえた選曲の劇中音楽にも定評があり、いっそう映像表現の情感を高めている。
そんな彼の監督7作目となるのが『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』。人気テレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズで世界的人気を博すキット・ハリントンに加え、『ルーム』(15)の天才子役ジェイコブ・トレンブレイ、ナタリー・ポートマンにスーザン・サランドンら演技派が競演。突然、謎の死をとげた人気俳優ドノヴァンの真実が、彼と秘密の文通をしていた11歳の少年ルパート(トレンブレイ)の記憶からひも解かれていく。
本作は、監督自身が子どもの頃に、大ファンだったレオナルド・ディカプリオへファンレターを送った思い出をもとにしているという。共に母との確執に悩む共通点を持った、ドノヴァンとルパート、2組の母と息子の痛々しいほどの愛に胸が張り裂けそうになる。映画界の光と影を知るスター、そのスターに憧れる少年。複雑な想いを抱えた二人に、ドランは自身の過去と現在を投影しているように見える。彼自身も集大成と銘打つ一作だ。
新作公開を機に、ドラン監督作をおさらいして、その魅力に浸ってみてはいかがだろうか?
文/トライワークス