マリリン・モンロー再来!? ミシェル・ウィリアムズが『My Week with Marilyn』で熱演
サイモン・カーティス監督の長編映画デビュー作『My Week with Marilyn』(全米11月23日より限定公開)が、9月30日から10月16日まで開催されたニューヨーク映画祭に出品され、サイモン監督とマリリン・モンローに扮したミシェル・ウィリアムズとエディ・レッドメインが記者会見に登壇した。
同作は、1956年にローレンス・オリヴィエが監督、製作、主演を兼ねた『王子と踊り子』の撮影のために、初めてイギリスを訪れたマリリンと、ローレンスの助手を務めていたコリン・クラークとの短くも淡い恋の物語。コリン著書の『Prince, the Showgirl and Me』と『My Week with Marilyn』が原作となっている。
当時、マリリンは劇作家のアーサー・ミラーと結婚していたが、片親だった辛い生い立ちや、セックスシンボルとしてしか見られない自分の存在に自信をなくしており、撮影中も躁うつ状態を繰り返していたマリリンを支えたのがコリンだという。マリリンの映画はこれまでにも数多く作られてきたが、恋の相手はアーサー・ミラーをはじめ、二番目の夫だったニューヨーク・ヤンキースの主砲ジョー・ディマジオ、そして後に不倫関係が伝えられたJ・F・ケネディ米大統領など、華やかな著名人ばかり。第三映画監督助手だったコリンとの恋についての情報は本人著作の2冊以外、皆無に等しいが、「私がこの作品で初メガホンを取ろうと決めたのは、この題材に心底ほれ込んだからなんです。私はコリンの2冊の日記(著作)が大好きなんです。ここにはプライベートなマリリンと、パブリックのマリリン、そして『王子と踊り子』を演じる女優としてのマリリンの3つの顔があるというのがとても気に入りました。その思いを周囲の人に話して最終的に実現したのですが、大事にしたい作品なのでじっくり時間をかけました。この映画の中にはたくさんのテーマがありますが、それは現在にも多く通じるものがあります」と、サイモン監督が語ってくれた。
本作でマリリンに挑んだのは、『ブロークバック・マウンテン』(05)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、『ブルーバレンタイン』(10)では同主演女優賞にノミネートされるなど、ハリウッドでの実力も認められている若手女優のミシェル・ウィリアムズ。役に入り込むことで有名だが、伝説の女優を演じるというリスクについては、「この話をいただいた時は、実在の人物でいろんな資料があるし、家で役作りができると思ったので、あまり事の重大さを理解していませんでした。とにかくマリリンになりきりたくて、家でいろんな文献を読んだり、インタビューを聞いたり、映画を見たり、マリリンについて勉強しました。リビングルームでモンローウォークをしてみたり、唇をすぼめて動きを真似てみたりということからスタートしました」と話す。
「しばらくしてから気がついたことは、彼女は“マリリン・モンロー”という女優を演じていたということです。私たちが持っている彼女のイメージは、マリリンが完璧なまでに自分で作り上げたもので、彼女はそれを演じていたんです。でも、その奥には本当の彼女が隠れていて、それが何層にも重なり合っていることがわかってきて、この作品では複雑でシリアスな内面を持つマリリンをどう演じるかということにとても苦心した」と、迫真の演技に至るまでのプロセスを語ってくれた。
金髪にトレードマークのほくろをつけてマリリンの内面を演じきったミシェルは、本作で素晴らしい歌声を披露しているが、「とにかくトレーナーが素晴らしかったので、数週間のボイストレーニングを受けて、どうにか歌えるようになりました。でも撮影の間は、楽屋にいる時もずっとiPodでマリリンの歌を聞いていた」そうで、長い時間をかけてマリリン漬けになっていったようだ。
メディアから執拗なほどの注目を集めていたマリリンを演じたミシェル自身も、『ブロークバック・マウンテン』で共演した故ヒース・レジャーが亡くなったことで、しばらくの間、メディアから追われる存在になったが、「当時のメディアと現在のメディアの違いは、インターネット。いろんな情報があふれていて、しかも多数の人たちの目や耳に間違った情報があっという間に流れてしまうということですね」と即答しており、時代は違えども、マリリンの苦悩は自身にも重ね合わすことができたのではないだろうか。
撮影中に演技がうまくいかず、ローレンスとうまくいかないマリリンを支えたコリンを演じたエディ・レッドメインは、英国一の名門イートン校でウィリアム皇太子と同級生で、ケンブリッジ大学卒のサラブレッド。素顔にも初々しさが残るエディは、「マリリンとの距離感が縮まっていくプロセスが大事だと思い、とにかく役になりきる努力をしました」と語っている通り、マリリンへの憧れと恥じらいが入り混じった眼差しから、愛を確信する力強い眼差しへと変わるコリンを見事に熱演している。「マリリンがプライベートで学生に囲まれて、みんなが自分のことを羨望の眼差しで見つめるシーンがとても気持ちよかった」そうで、ミシェル扮するマリリンを前に、エディもコリンになりきっていたようだ。
しかし、彼らが本人になりきれる理由は他にもあった。サイモン監督が感動的だったと語るのは、「同作は、実際に1956年に『王子と踊り子』が撮影された同じスタジオで撮影され、マリリンが座った階段にミシェル扮するマリリンが座り、またマリリンが踊った位置と全く同じ位置でミシェル扮するマリリンが踊った瞬間でした。まさに1956年にタイムとリップしたようだった」そうで、そういった意味でも、滅多に見ることができない貴重な作品と言えよう。
また脇を固める俳優陣も、ローレンスを演じたケネス・ブラナー、当時のローレンスの妻ヴィヴィアン・リーにジュリア・オーモンド、そして大女優のジュディ・ディンチに、『ハリポタ』シリーズでおなじみのエマ・ワトソンら、豪華キャストが勢ぞろいしているが、何よりミシェルとケネスの演技は高い評価を得ており、アカデミー賞主演女優賞、助演男優賞ノミネートの期待がかかっている。【取材・文NY在住/JUNKO】