故・原田芳雄の一周忌イベントで、ニューヨーカーも追悼の意
2011年7月19日に亡くなった原田芳雄を偲び、日本では2003年7月19日に公開された『ナイン・ソウルズ』の上映が9年ぶりに行われ、豊田利晃監督、松田龍平らキャストが勢ぞろいしたが、7月12日からニューヨークで開催されているジャパン・カッツ!でも、現地時間7月19日に追悼イベントが開催された。
故人が亡くなる3日前の2011年7月16日に公開され、遺作となった阪本順治監督『大鹿村騒動記』(11)と、豊田監督作『ナイン・ソウルズ』が上映されたが、夜遅くにもかかわらず、多くのニューヨーカーたちが会場に詰めかけた。豊田監督は、7月15日には監督作『モンスターズクラブ』(12)でニューヨークの舞台に登壇したが、残念ながら同追悼イベントに参加できなかった。しかし、「日本でも原田さんの追悼イベントがあるため、ニューヨークに残ることができなくて残念でしたが、今日は劇場に足を運んでいただいてありがとうございます。実際に父親のような存在だった原田さんは、この映画中でずっと生き続けています。父親と息子たちのような関係の9人の人間ドラマを楽しんでいただけたらと思います」という監督からのメッセージが読み上げられると、会場は大きな拍手に包まれた。
長野県の山間の村で、300年もの村歌舞伎の伝統を持つ大鹿村を舞台に、村人たちの悲喜こもごもを描いた『大鹿村騒動記』では、豪華キャストが繰り広げる喜劇に会場は爆笑の連続だった。故・原田芳雄扮する風祭善が経営する食堂「ディア・イーター」の意味や、善が飼っているバンビの名前を呼ぶシーン、佐藤浩市扮する越田一平が病院のベッドの上で歌舞伎を演じるシーン、岸辺一徳扮する能村治が裸で温泉に飛び込むシーンなど、何もかもがニューヨーカーのツボを刺激したようだ。また、刑務所の脱走に成功した9人の男たちを描いた『ナイン・ソウルズ』でも、シリアスなドラマでありながら、9人のプロフィールのシーンから始まり、女装姿、シツジのシーンに至るまで、会場は爆笑の渦に包まれた。
これまでニューヨークの舞台に登壇した監督や俳優たちは、「ニューヨーカーたちの笑いのツボは日本人たちとは大きく違い、ニューヨーカーは躊躇なく大声で笑う」と口をそろえて話すが、今回ももまたしかり。監督はもちろんのこと、故・原田芳雄にもこの舞台に立って彼らの反応を生で体感してほしかったものだ。
2009年のトライベッカ映画祭で上映された是枝裕和監督『歩いても 歩いても』(08)に出演している故・原田芳雄について、観客は「日本映画は見るけど、彼のことは知らなかったの。でも今回初めて彼の主演作を見て、彼の存在感はすごいと思いました。本当に惜しい役者を亡くしたと心から残念に思います」「『歩いても歩いても』を見たけれどあまり印象がなかった。でも今回で彼が素晴らしい役者だってことがわかったよ。彼の作品を色々見てみたいね」など、今回改めて“原田芳雄”という役者の存在感を認識するニューヨーカーも多かったようだ。
また『大鹿村騒動記』を見て、「歌舞伎に興味を持った」「地震の時、日本人の連帯感はすごいと思ったけれど、普段でもとても温かくて深い人間関係があるのだと再認識した」といった意見など、改めてニューヨーカーが日本映画、そして日本に興味を持つきっかけとなったようで、各作品上映後も拍手が鳴り止まなかった。故人も天国でさぞかし喜んでいるに違いない。【NY在住/JUNKO】