『潔く柔く』の高良健吾「15歳の高校生役だからこそ、挑戦したかった」
累計295部を突破した、いくえみ綾の同名コミックスを映画化した『潔く柔く きよくやわく』(10月26日公開)。大切な人を失った過去を持つ男女が出会い、心をかよわせていく姿を描いた感涙のラブストーリーだ。ここでキーパーソン的な存在の男子高校生を演じているのが、高良健吾である。『横道世之介』(12)など今年の公開作品だけでも9本の映画に出演、今や邦画界になくてはならない俳優の一人となった彼が、役柄への思いと芝居へのアプローチをたっぷり語ってくれた。
高良が演じるのは、長澤まさみ扮する幼馴染の瀬戸カンナに思いを寄せながらも、15歳という若さでこの世を去ってしまう春田一恵。仲間から“ハルタ”と呼ばれ、男気があるノリの良さとやんちゃな性格で慕われているキャラクターだ。今年26歳を迎える高良は、“15歳の男子高校生になる”という点が出演の決め手だったという。「この歳で15歳役をやる、ということに挑戦したかったんです。ハルタのセリフはもちろん、もし自分だったらそれをどう言うのかなって興味があった。というのも、自分が通ってきた感情とハルタが似ている部分があるのですが、発する言葉は違いますよね。だから、自分でどう表現するのか、チャレンジしてみたかった」と、意外な出演経緯を明かした。
ちなみに、印象的なハルタのセリフを尋ねると「やっぱりガソリンスタンドのところですね」との答えが。このガソリンスタンドでハルタは従弟の清正(古川雄輝)に、カンナへの素直な気持ちを告白。普段のハルタとは違う、男としての顔を見せるシーンだ。「あのセリフは深いし、なかなか言えないと思う。それに、もし自分だったらと思うと恥ずかしいですもん。だからその分、楽しかったな」と、顔をほころばせる高良。また、セリフについて心掛けたことを「自分がこの年齢まで人生を歩んできているので、いろいろな経験をしています。だから、気を付けたのは“お兄さん目線にならないこと”。あの頃の恋愛が恥ずかしかった、とか、切なかったと思い返しても、実際演技の上では必要ないですから」と語る。
一番大切な人に、自分の素直な思いを届けられないまま亡くなってしまうハルタ。高良自身も気持ちを伝えることは苦手なようで「大事なことを言えないことのほうが多いです。自分で何を伝えたいのか、何を言いたいのかわからなくなる時もありますよ」と、ハルタとの共通点ものぞかせる。だからこそ、ハルタの気持ちがカンナに届いた時は自身にも特別な思いがあったよう。「ハルタはやっぱり苦しかったと思います。もちろん、カンナも彼との過去を引きずっていますから、同じように苦しかったはず。でも、彼女が禄(岡田将生)の存在によって変化していき、最後にはハルタの気持ちが彼女の元へ届く。カンナが踏み出した一歩はとても大きくて、かけがえのないものだと思います」
今年に入ってからも『千年の愉楽』(12)『県庁おもてなし課』(13)などの話題作に出演、とにかく引っ張りだこの高良だが、近頃、芝居へのアプローチや心構えが変わったという。もちろんそれは、『潔く柔く きよくやわく』でも試みた。「スクリーンの中で『その瞬間を生きる』『その場にいること』は、昔から大切に思ってきました。それは今も変わらない。ただ、カメラの向こう側に『届ける』『伝える』という気持ちは以前より格段に大きくなりましたね」。そのきっかけについては「うまく言葉に出来ませんが、ある時から自分自身に対してつまらないなぁと思い始めて…。そこで何を変えるのかって言ったら、ここだったんです。そういう時期にこのお話をもらって、15歳の高校生役に挑戦してみようと思えた。不安や緊張もあるけど、それを武器に、味方にした方が絶対楽しいだろうなって」と、俳優としての心境の変化をゆっくりと丁寧に話してくれた。
作品に対して“呼ばれる”感覚があると言う高良。本作はまさに“呼ばれる”に応じた彼の意欲作と言えるだろう。「実際に大切な人を亡くした方もいるだろうし、年代によって感じ方も違うと思います。自由に見てほしいです」と、力強く語る高良版“ハルタ”を劇場でしっかり目に焼き付けてほしい。【取材・文/トライワークス】