のび太の3D化に一番苦労した!『STAND BY ME ドラえもん』の監督コンビが告白

インタビュー

のび太の3D化に一番苦労した!『STAND BY ME ドラえもん』の監督コンビが告白

「ドラえもん」を初の3Dアニメとして描く。この一報を聞いた時、どこの誰が、そんな無謀なことにトライするのだろうと、耳を疑った。でも、そんな勇気あるチャレンジャーが、『永遠の0』(13)の山崎貴監督と、『friends もののけ島のナキ』(11)で共にタッグを組んだ八木竜一監督のコンビだと聞いて、驚きは大きな期待へと変わった。

完成した『STAND BY ME ドラえもん』(8月8日公開)は、藤子・F・不二雄の原作を愛してやまない2人だからこそ成し得た、ワクワクするような「ドラえもん」映画になっていた。山崎監督と八木監督にインタビューし、3D化の裏話について聞いた。

なるほど、こうなっていたのか!3D映画版を見て仰天したシーンのひとつが、タイムマシンにつながる引き出しの中の世界だ。

山崎監督は、そこは3D映画ならではの表現にこだわった。「そもそも『ドラえもん』って、同時に別空間が存在している状況が、いろんなところにあるんです。引き出しの中もそうですし、どこでもドアも、中に広がるのは、現実とは違うパースの空間です。それを見せられるのが3Dの醍醐味ですね。マグリットの絵みたいに立体的なんです」。

八木監督も、引き出しの中の表現には、特別な思い入れがあったそうだ。「元々、藤子・F・不二雄先生が、『ドラえもん』の連載を始める前に、引き出しの中から何かが出てくるということを予告カットで書いていたんです。だから、引き出しの中は、すごく面白くしないといけないと思っていました。それに、イリュージョンみたいなものって楽しいじゃないですか。そういう感じが出せれば、絶対に面白いと思いました」。

未来からやってきたネコ型ロボットのドラえもん。本作は、原作コミックにある7つのエピソードを見事に組み合わせ、ドラえもんとのび太たちの日常を描いた感動作となった。キャラクターについて、山崎監督は「けっこう神経を使いました」と振り返る。「3Dになっても違和感がないように作ったつもりなんですが、いざ予告編が公開されると、違和感を感じる人が少なからずいました。でも、大丈夫。5分で慣れます(苦笑)。特に、苦労したのは、のび太ですね」。

八木監督も大きくうなずく。「のび太って、主人公に近い副主人公でしょ。今回、3Dにする上で、悩んだのは目ですね。コミックでは、メガネと目がくっついてる状態だけど、今回はメガネの中にきちっと目がないと感情移入ができない。どうしたらちゃんとのび太に見えるかってところが、一番大変でした」。山崎監督も「『ドラえもん』って誰もが身近に感じているから、アニメやコミックののび太が、完全に刷り込まれているので、よけいに難しかったです」と続けた。

今回登場するのび太が、前髪パッツンな点にも理由がある。八木監督は言う。「今でこそ、子供の髪型って多様性があるけど、70年代、80年代くらいの子供は、みんなぼっちゃん刈りでした。床屋に行くと、みんなあの髪型にされる(笑)。僕もそうだったし、僕より10年若いアートディレクターの花房真も、10歳の頃、同じ髪型をしていたそうです。そういう一番平均的な髪型をのび太はしているんです。また、漫画にはなかったけど、のび太のだらしないところを表すように、寝癖も入れたんです。朝起きると跳ねてるってことで」。

さらに、「僕自身も小学生の時からのび太的な人生を歩んできました。勉強も運動もできないし、漫画も大好きで、ダメな子供時代を過ごしてきました」と告白。でも、近年、常に人の気持を考えることができるのび太の優しさや人間力が見直されてきたが、2人はのび太の良さをどう捉えているのか。八木監督は「のび太は、すごくダメダメな人間だけど、人を思いやれることと、決して諦めないという心を持っている。そこの2つに関しては突出している子なんじゃないかなと、密かに思っています」と評価。

劇中では、「のび太の結婚前夜」のエピソードも入っていて、大人になったのび太も登場するが、居眠りする時の鼻風船もそのままなところが笑える。山崎監督は「大人になっても全然変わってなくて、がっかりしました」と笑いながらも「ただ、のび太はいつだって、肝心な場所ではふんばれるし、諦めないんです」とキッパリ言う。「のび太の人間の根幹な部分は、そこかなと。表層は全くダメでも、芯になっている部分ではすごく良い物を持っている。だから、本当に追い詰められた時、最後の最後まで頑張れるんです」。

そう、『STAND BY ME ドラえもん』では、そんなのび太の根幹の強さがきちんと描かれている。そして見終わった後、改めて「ドラえもん」という作品の懐の深さにうなるのだ。この夏、いわば映画館が、『STAND BY ME ドラえもん』の世界へ連れていってくれるどこでもドアとなる。その扉を、多くの人に開けてほしい。【取材・文/山崎伸子】

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