「⽇本沈没2020」で湯浅政明監督と3度目のタッグ…電子音楽家、牛尾憲輔の劇伴に迫る!
小松左京の名作SF小説を、『夜は短し歩けよ乙女』(17)、『夜明け告げるルーのうた』(17)、テレビアニメ「映像研には手を出すな!」などの湯浅政明監督が新たにアニメーション化した「日本沈没2020」。現在Netflixにて独占配信中で、突然の天変地異によって崩壊していく日本を舞台に、懸命に生き抜こうとするある家族の物語が描かれている。そんな本作の劇伴を担当したのは、電子音楽家の牛尾憲輔。湯浅監督とは今回で3度目のタッグとなる彼の印象的な音楽にフォーカスして、作品を紹介したい。
ジャンルにとらわれない発想で楽曲を作り続ける牛尾憲輔
ソロユニットである「agraph(アグラフ)」として3枚のアルバムを制作し、電気グルーヴのサポートメンバーであり、元SUPERCARの中村弘二とフルカワミキ、NUMBER GIRLの田渕ひさ子と組んだスーパーバンド、「LAMA(ラマ)」としても活動する牛尾。劇伴制作では、京都アニメーション所属の山田尚子監督と組んだ『聲の形』(16)や『リズと青い鳥』(18)のほか、『サニー/32』(18)、『モリといる場所』(18)といった実写作品にも携わっている。
電子音楽を中心としつつも、『リズと青い鳥』では廊下を歩く音やドアを開く音、学校にある備品が鳴る音をサンプリングし、『モリといる場所』でも主人公の熊谷守一がチェロを弾いていたことにインスピレーションを受けて、チェロを叩いた音を使うなど、ジャンルにとらわれない豊かな発想で楽曲を制作している。
牛尾が湯浅監督と組むのは「ピンポン THE ANIMATION」「DEVILMAN crybaby」に続いて、「日本沈没2020」が3度目。彼にとっての本格的な劇伴制作となった「ピンポン~」では緩急あるビートで卓球の試合シーンを盛り上げ、ハードな描写が続く「DEVILMAN~」ではアンダーグラウンドなクラブミュージックが話題となり、楽曲の一つ「Judgement」は海外ゲーム「League of Legends」のWEBムービーにも使用されている。
心地よい楽曲が残酷な世界に生きる登場人物たちに寄り添う
「日本沈没2020」のようなディザスター作品で使われる音楽は、緊張感や恐怖感を煽るものを想像するが、本作の音楽はそのような典型にははまっていない。第1話「オワリノハジマリ」でいきなり、地震によって東京の街が破壊され、ビル群が燃え盛る映像が流れてくるが、聞こえてくる音楽は静かで心地よい。この場面は、離れた場所で被災した主人公の家族が再会するシーンでもあり、不安のなかにあるかすかなやすらぎを感じさせる。
このように、そのまま作業用BGMに使えそうなやさしいメロディが全編を彩るが、物語の後半で主人公の母親が死を覚悟して海へ飛び込むシーンなど、登場人物が決意を固める場面ではより力強い曲調になり、エモーショナルさが増幅。また、最終話で在りし日の日本の光景を切り取った画が連続して映しだされる場面では、日常にあふれる様々な音をサンプリングして組み合わせており、ノスタルジックな感動を呼び起こしている。
環境音楽の第一人者、吉村弘の楽曲も使用
牛尾が手掛けた楽曲ではないが、第5話「カナシキゲンソウ」にて日本の環境音楽の第一人者、吉村弘の楽曲「Creek」が使用され、強い印象を残している。主人公一行が一時的に身を寄せたコミュニティで開かれるナイトパーティのシーンに登場するのだが、そこで吉村が1986年に発表した「Green」というアルバムジャケットが取り出されている。
吉村と言えば、彼の楽曲も収録された、日本の環境音楽ばかりを集めたアルバム「KANKYO ONGAKU: JAPANESE AMBIENT ENVIRONMENTAL & NEW AGE MUSIC 1980-90」が昨年海外のレーベルから発売され、第62回グラミー賞の最優秀ヒストリカル・アルバム賞にノミネートされたことで再び注目を集めていた。牛尾自身も吉村からの影響を受けていたようで、選曲は彼からの提案だそう。ちなみに、このナイトパーティーのシーンでDJをしているのは牛尾にそっくりなキャラクターなのだが、登場人物の一人でYouTuberのKITE(カイト)にステージを奪われ、「Creek」がかけられる…という展開になっている。
主要キャラクターが唐突に非業の死をとげるなど、ショッキングなシーンも多い本作。しかし、困難な状況でも、大切な人を守ろうとする人々の絆、生きようとする意思の強さが胸を熱くする。それらの映像に寄り添い、静かに支える牛尾憲輔の音楽にも耳を傾けてみてほしい。
文/平尾嘉浩(トライワークス)
8月26日(水)発売
価格:3,500円+税
発売・販売元:エイベックス・ピクチャーズ