『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ぶっ飛んだ発想で生まれ変わった、過激さ“マックス”な魅力
『マッドマックス/サンダードーム』(85)から30年、新たな時代に誕生したシリーズ第4弾が『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)だ。今作でマックスが立ち向かうのは、巨大要塞シタデルの独裁者イモータン・ジョー。要塞に連行されたマックスは、子を産む道具として監禁されたイモータンの花嫁たちの脱走劇に協力する。
今作でマックスを演じたのは、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト ライジング』(12)や、『ヴェノム』(18)などで知られるトム・ハーディ。当時30代半ばのハーディの起用によって、メル・ギブソンが演じた寡黙で超然としたマックスに、アクティブな味わいが加わった。ちなみにイモータン役は、第1作でバイカー集団の首領トータッカーを演じたヒュー・キース=バーン。脱走計画の首謀者でマックスの相棒となるフュリオサを、オスカー女優シャーリーズ・セロンが演じている。
見どころはもちろん、過激さマックスのカーアクションだ。今作でマックスが駆るのは、ニトロ・エンジンを搭載した18輪の武装トラック“ウォー・タンク”。愛車インターセプターを奪われたマックスは、フュオリサと共に怪物のようなこのトラックで死の荒野を突っ走る。彼らを追うイモータンの戦闘部隊、ウォー・ボーイズのビークルたちも個性派揃い。クーペやセダン、バン、重機車両など、複数の車体を合体させたカオスのようなルックが醸す威圧感は、過去作のマシンから大きくアップデートされている。
そんな武装マシンのカーチェイスはまさに死闘!激しいボディのぶつけ合いだけでなく、チェーンやモリ、巨大アーム、爆弾など豊富な攻撃バリエーションに舌を巻く。仲間の戦意をもり立てるため、“戦場のバグパイプ”よろしくギターやドラムを積んだワゴン車が大音量で演奏しながら併走するなど、ぶっ飛んだ発想にも脱帽だ。イモータン軍団に加え、ハリネズミのようなトゲ付きマシンに乗ったヤマアラシ族、バイクで空中戦を展開するイワオニ族ら他の武装集団も入り乱れ、終わりなきバトルを繰り広げる。
前作から30年の間に映画のデジタル化が進み、いまや危険な見せ場はCGIが基本だが、本作のアクションは実車を撮った生バトル。安全装置を消したり炎を足すなどCGIはあくまで補佐役で、衝撃映像の数々はスタントマンの命がけのハンドルさばきによるものだ。端々にコマ落としによるクィックモーションの粗いアクションを挟むなど、過去作と同じく古典的テクニックを使っているのも嬉しい限りだ。スタント監修・第2班監督は『マッドマックス2』(81)で超過激なスタントを演じたガイ・ノリスが担当。可動アームの先のカメラを付けたエッジアーム搭載の撮影車を導入により、これまで以上に自由なアングルからの映像が味わえるのも魅力である。
見どころはカー&アクションだけではない。最終戦争の後遺症で皮膚のただれたイモータンや白塗りのウォー・ボーイズ、全身にタトゥーを入れたシタデルの住人らの不気味なキャラデザイン。ヘルメットやゴーグル、アクセサリーなど細々した装具まで狂気あふれる小道具や衣装など、造型物の凝りようもハンパじゃない。ちなみに本作は、第88回アカデミー賞において、美術、編集、衣装デザイン、ヘアメイク、音響、録音でオスカーを獲得。6部門での受賞は同年最多である。
過去作を踏襲しながら、新たに生まれ変わった『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。“近未来バイオレンス”というジャンルを打ち立てた『マッドマックス』の持つオリジナリティと凄まじさを、あらためて思い知らされる力作だ。
文/神武団四郎