今年も多種多様な意欲作が集結!開催直前、第33回東京国際映画祭の見どころは?
国内外の名だたる映画祭が開催規模の変更やオンラインへの移行を余儀なくされた2020年。そんな世界的状況を考えれば、東京国際映画祭(TIFF)が発足当初からの信条を守り、今年もバラエティに富んだ作品をそろえ、劇場で体感できるチャンスを用意したことは、映画ファンにとってはうれしいばかりだ。海外からゲストが来日できないのは残念だが、様々なジャンルや国の映画を楽しめることに違いはない。
観客の投票で「観客賞」が決まる!「TOKYOプレミア2020」
今年のTIFFの大きな変化は、グランプリなど各賞の審査が実施されないこと。ただ一つ授与されるのが「観客賞」だ。つまり今年の栄冠は観客の投票で決まるので、例年以上に映画ファンのモチベーションは上がりそう。観客賞の対象は「TOKYOプレミア2020」というカテゴリーで、映画祭のオープニング作品となる、「全裸監督」や『百円の恋』(14)の武正晴監督による渾身のボクサー映画『アンダードッグ 前編&後編』(11月27日公開)をはじめ、大九明子監督の『私をくいとめて』(12月18日公開)、竹中直人、山田孝之、齊藤工の共同監督作『ゾッキ』(21年春公開)など、気鋭の才能による日本映画の新作がズラリと並ぶ。
鬼才デヴィッド・クローネンバーグの息子であるブランドン・クローネンバーグ監督の、斬新なビジュアルが目を引くSF作品『ポゼッサー』(20)など海外作品も充実。注目したいのはマレーシアと日本の合作映画2本で、2017年のTIFFで最優秀監督賞を受賞したマレーシア人監督、エドモンド・ヨウが、永瀬正敏や水原希子を起用し、音楽は細野晴臣という『Malu 夢路』(20)、マレーシア出身で日本も拠点の一つにするリム・カーワイ監督が、大阪で暮らすアジア人たちの実像に迫った『カム・アンド・ゴー』(20)が気になるところ。
『ノマドランド』に『新感染』続編などがそろった「特別招待作品」
毎年、劇場公開前にイチ早く観られるチャンスとしてチケット争奪戦も起こる「特別招待作品」。クロージング作品で、葛飾北斎の生涯を柳楽優弥と田中泯が熱演した『HOKUSAI』(21年公開)や、ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞、トロント国際映画祭の観客賞と2冠に輝いた『ノマドランド』(21年1月公開)、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)の続編『新感染半島 ファイナル・ステージ』(21年1月1日公開)といったタイトルが大きな盛り上がりを見せそう。また、『エイブのキッチンストーリー』(11月20日公開)、『アーニャは、きっと来る』(11月27日公開)と主演作2本がそろった、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」などで知られるノア・シュナップは、今年のTIFFの“顔”になることだろう。
名だたる映画祭で受賞、出品されてきた意欲作が並ぶ「ワールド・フォーカス」
そして、”TIFFでしか観られない”秀作を求める人には、例年以上に「ワールド・フォーカス」のラインナップが充実。イランの死刑制度を見つめ、ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞を受賞した『悪は存在せず』(20)や、同映画祭で銀熊賞を受賞しネット格差社会をコミカルに描いた『デリート・ヒストリー』(20)、サンダンス映画祭で観客賞を射止めた『息子の面影』(20)など、名だたる映画祭の受賞作、出品作が並ぶ。巨匠アン・ホイが監督を務め、音楽を坂本龍一が、衣装をワダエミが手がける『第一炉香』(20)なども映画ファンを歓喜させるはず。また、北朝鮮の政治犯強制収容所の実態をアニメ化した問題作『トゥルーノース』など今後、日本で劇場公開が決まっている作品は少ないので、世界の潮流を知るには貴重なチャンスだ。
今年の「Japan Now」部門は深田晃司監督に
日本映画のいまを俯瞰する「Japan Now」部門では、深田晃司監督を特集。第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した『淵に立つ』(16)や、最新作『本気のしるし<劇場版>』(公開中)など、日本映画界を牽引する存在になりつつある深田監督の真髄を確かめたい。
同じく日本の映画人を代表する是枝裕和監督の発案から新企画として始まるのが、「アジア交流ラウンジ」。中国のジャ・ジャンクー、台湾のツァイ・ミンリャンに、黒沢清、行定勲、橋本愛らアジアの映画人が連日オンラインでトークイベントを行う。コロナ禍で開催される今年のTIFFの目玉企画として大きな注目を集めそうだ!
各上映やイベントのチケットは現在インターネットにて発売中。また映画祭の期間中は、六本木ヒルズのチケットセンターでも購入が可能となっている。
文/斉藤博昭