黒沢清、『CURE』『蛇の道』『蜘蛛の瞳』を語る!
「『蛇の道』は、完全に“高橋洋ワールド”でした」
――この映画のラストシーンは、謎を残し、いつまでも尾を引きます。
黒沢「実は決定的な場面を思い切り、ばっさりとカットしてしまったんですけど、わりとそれは快感でしたね。オリジナルビデオなんかでよく、どうしても尺を詰めなきゃいけない時にも『よし、シーンの真ん中あたりでバスッと切ってやれ』と、ごく軽い気持ちでやっていたんです。やっぱり自由でしたねえ。良くも悪くも二度とあんな無責任なことはできないでしょうけれど」
――カットしたフィルムはどうされたんですか。
黒沢「フィルムそのものはないんですが、ちょうどカットしたあたりのシーンでメイキングのビデオが回っていて、今回の映像特典に入っています」
――そっ、それはスゴい! さて、ここらで『蛇の道』と『蜘蛛の瞳』の話へ。まず『蛇の道』は幼い娘を惨殺された男と、彼に手を貸した謎の男の復讐劇で、前者は香川照之さん、後者は哀川翔さんが演じ、脚本は“Jホラーの始祖”としても有名な高橋洋さんが担当。
黒沢「完全に“高橋ワールド”でしたね。僕には到底浮かばない、人間の殺伐とした行いを次々と並べていき、しかもほとんどコメディ一歩手前のテイストになっていた。演出では、絶対に笑いが起きないよう注意しました。あと、高橋くんのシナリオでは最後、突然哀川さんが『車に轢かれて死ぬ』と書かれていて、それはさすがに完全却下した(笑)。代わりと言ってはなんですが、香川さんが目にすることになるモニターの映像、あれは僕の案なんです。こういう風に終わらせたほうがよりイヤな感じでしょ、って」
――へえ〜、あそこで出てくる映像が…と言っても、未見の方、ごめんなさい。これからのお楽しみに。哀川翔さんとは名コンビで、数多くのオリジナルビデオを残してきましたね。
黒沢「ええ。『CURE』を撮る前年に、哀川さんの主演で『復讐』シリーズ(『復讐 運命の訪問者』『復讐 消えない傷痕』)を2本、撮っていまして。その流れが『蛇の道』と『蜘蛛の瞳』に継承された、とも言える。哀川さんには心から感謝しています。“Vシネマの帝王”としてはやんちゃな役が売りでしたが、ご本人は至ってクールでスマートな方。全部で6作ある『勝手にしやがれ!!』シリーズでもいろんな趣向に面白がって飛び込んで、哀川さんとならばこんなジャンルもできる、というのを実現させてくれました。しかも、ネームバリューでセールス関係もクリアしてしまうので、ますます観る方がどう受けとめるのか考えないで、好き放題やってしまった(笑)」
――一方、香川さんも『トウキョウソナタ』(08)や『クリーピー 偽りの隣人』、それからWOWOWのドラマ『贖罪』(12)と、黒沢組の一員です。
黒沢「あくまで僕の印象ですけど、『クリーピー〜』ではムードメーカーで、休み時間に他のキャストを集めて、ワイワイと盛り上げてくださったのですが、この『蛇の道』の頃の香川さんは、撮影の合間は静かに読書をされていて、見るからにインテリ然とされていましたね。一言でいえば大人しい感じ。でも、いざカメラの前に立つと、狂っていく様をまざまざと体現してくださいました」
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価格:¥4,800(税抜)
発売/販売元:KADOKAWA
■『蛇の道』
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価格:¥2,500(税抜)
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■『蜘蛛の瞳』
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