坂元裕二、野木亜紀子が信頼を寄せる土井裕泰の 『花束みたいな恋をした』は、なぜ“テレビ的”ではないのか?【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】
宇野「TBSを志望されたのは、やはり当時はテレビドラマといえばTBSだったからですよね?」
土井「そうですね。東京オリンピックがあった1964年生まれで、ちょうどカラーテレビの普及と共に育ってきて子どもの頃から久世光彦さんのドラマが大好きで、『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『ムー一族』と夢中になって見てました。高校生ぐらいになると、山田太一さんのドラマをはじめとしていろんなドラマを見るようになりましたが。あの時代にどこでドラマの仕事をしたいかっていったら、自然とTBSでしたい、ってことなってくるんですよね」
宇野「よくわかります。学生時代は映画もよく観ていらした?」
土井「世代的にはずばり、『バラエティ』(薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子らが頻繁に表紙を飾っていた角川書店の映画雑誌)は毎月買っているような角川映画直撃世代で(笑)。広島のわりと街中に住んでいたので、近所に映画館がたくさんもあって、高校時代からATG(日本アート・シアター・ギルド)の映画とかもよく観ていましたね」
宇野「いまの10代や20代にとって、テレビドラマに代表されるメジャーのカルチャーと、インディペンデント的ないわゆるサブカルチャー的なものが割と切り離されていて、映画や演劇や小説に詳しいということ自体がもはやマイノリティになっている。『花束みたいな恋をした』のメインの2人の会話にもよく表れていたように、その部分で2人は共感を育んでいきますよね。でも、昔はメジャーのカルチャーとマイナーなカルチャーって、もっと地続きで、土井監督のようにATGの映画を観ながらTBSの入社試験を受けるみたいな、そういう人も珍しくなかったような気がするんです」
土井「言われてみると、確かにそうかもしれないですね。僕が『花束みたいな恋をした』の2人に共感したのは、絹(有村架純)のナレーションで、『パンを落としたら必ずバターを塗ったほうから落ちる。だから私は大体密やかに生きていて…』って台詞で。彼女はある種のメインカルチャーに属さないもの、みんなが好きなものとは少し違うものが好きだという自覚があるわけだけど、そういう同調圧力に積極的に抗うのではなく、なるべく目立たず、密やかに自分の好きなものを好きでいられる世界を守れればいいという慎ましさがあの2人にはあって。そこが最初に、この2人を愛したいな、と思えたところだったんですよね」
宇野「最初にあの2人が出会った時、同じ飲み屋に押井守がいることに気づいても、いわゆるリア充的な社会人がいるところではなにも言わず、2人になってからようやくその話題をするところにも、そういう態度が表れてましたね。別に、主張しても仕方がないところではしないっていう」
土井「そう。坂元さんからこの脚本をもらった時、これだけリアルなポップカルチャーの固有名詞がたくさん出てくるものだとは思っていなくて、ちょっと面食らったんですよ。僕も30年前はいわゆるサブカル青年の端くれでしたから、最初はそのことにとても引っ張られてしまったんです。でも、脚本を読み込んでいくうちに、そこに出てくる固有名詞に馴染みのない人たちを排除するような話ではまったくないし、そうしてはいけないってことがわかった。2人が初めて会った日に、居酒屋で『ceroの高城(晶平)さんがやってる店』『あ、Rojiですか』っていう会話があるじゃないですか。思わず坂元さんに『これは、ほとんどの人がなにを言っているのかわからないと思うんだけど、いいですか?』と聞いたら、『ほかの人がわからない話で2人がこんなに盛り上がれている、つながっているっていうことだけが大事なので、これでいいんです』って言われて、そこから本作に取り組む上での自分の立ち位置というか、すべきことがクリアになったんですよね」
宇野「なるほど。それは、具体的に言うと?」
土井「この作品では意識的にニュートラルであることを自分に課すということ。ある一定の距離を保って、ただただこの2人を見つめることに専念して、そこに僕自身の個人的なノスタルジーを入れないようにするということです。ニュートラルでいることっていうのは、実は『カルテット』の時にも心がけていたことで。そういう意味では、『カルテット』とこの作品って、僕のなかではつながっているんです」
宇野「坂元さんから『「カルテット」はある特定の17歳の子に向けて書いた』って話を聞いた時は、本当にびっくりしたんですけれど」
土井「『カルテット』に取りかかる時、最初に坂元さんから『僕が書きたい話を書いていいドラマですか?』って言われて。『僕が書きたいことを書くと、視聴率は9%しか取れません。それでもいいですか?』って。『大丈夫です』と答えましたけど(笑)」
宇野「(笑)」
土井「自分の口から言うのは違うかもしれませんが、その時に坂元さんから『僕の知り合いで、いま学校に行かれなくなってしまった17歳の子がいて、今回はその子に向けて書きたいんです』と言われたんです。実際、『カルテット』には17歳の子が出てくるわけじゃないんですけど、社会のメインストリームからちょっと外れてしまった人たちにエールを送る、そういう話だということは、あの作品を作り終えてもう一度坂元さんの言葉を思い出した時に、とても腑に落ちましたね」
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