坂元裕二、野木亜紀子が信頼を寄せる土井裕泰の 『花束みたいな恋をした』は、なぜ“テレビ的”ではないのか?【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】
宇野「これで土井監督は、野木亜紀子脚本の『罪の声』、坂元裕二脚本の『花束みたいな恋をした』と、結果的に現在のテレビドラマ界の2大スター脚本家の作品で立て続けに監督したことになるわけですけど、それぞれどういう流れで監督することなったのかを簡単に教えていただけますか?」
土井「『罪の声』に関しては、プロデューサーが野木さん・土井というセットで考えていたようです。『花束みたいな恋をした』に関しては、リトルモアの孫(家邦)さんが坂元さんに映画をって口説いていった過程で『だったら土井さんで』という話になったと聞いています」
宇野「いずれにせよ、映画監督を生業にしているわけではない以上、最初のきっかけは受けになるわけですよね?」
土井「そうですね。自分から『これをやりたい』と企画を持っていったことはないですね。自分発みたいなことは、これから先のキャリアのなかで出来るといいかなと思いますけど。2004年に『いま、会いにゆきます』で初めて映画の監督をやらせてもらった時は、会社の同期の那須田プロデューサーが映画に引っ張ってくれたんです。そこから毎回毎回、一つ一つの作品は大事に思ってますけど、毎回声がかかるのを待っているかたちです。そういう意味でも、作品をヒットさせることはすごく大事だと思っていて。映画の仕事として、ちゃんとそれを次につなげたいということは毎回考えて現場に臨んでいるんです」
宇野「会社員としてではなく、監督として?」
土井「そうです。映画の仕事を続けたいという気持ちは強くて。今回の『花束みたいな恋をした』が7本目ですけど、先ほども言ったように、いままでとまったく違うかたちで話をいただけたことが本当にうれしかったし、『あ、ここにつながった』と思えたんです」
宇野「2004年に『いま、会いにゆきます』で監督としてデビューするまでに、テレビドラマの世界ではそうそうたる脚本家の方々と名作の数々を作られて来たわけですが、映画を初めて撮ることになった時はどのような思いだったんですか?」
土井「あの頃は、ちょうどテレビドラマの世界で1周回ったような感覚があって。あの当時自分がご一緒したいと思っていた脚本家の方々とは次々仕事をさせていただくことができて、それは幸せなことではあったんですが、やはり連ドラのルーティンのなかで、自分の数少ない引き出しを開けたり締めたりしているだけなんじゃないだろうか、自分はなにか新しいものを生みだせているんだろうか、ってことを考え初めていた時期だったんです。だから、馴染みのスタッフを誰も連れて行かずに、半ば武者修行のように一人で映画の現場に入っていって。当時はまだ映画もフィルムで撮っていたということもあって、現場での時間の流れ方だとか、スタッフの感覚の違いだとか、そういうものに結構くじけそうにもなりましたが、そこで支えてくれる映画人の方々とも出会えて、自分の世界が広がったという実感を得ることができました」
宇野「ちょうど40代に入った頃ですね」
土井「そうです。40代の10年で映画を何本かやらせてもらって、それが2周目だったという感覚ですね。2015年に『映画 ビリギャル』を撮った時に、映画の世界でもちょっと自由になれたという感覚があって。その後に、野木亜紀子さんと『重版出来!』というドラマをやって、『逃げるは恥だが役に立つ』にも参加させてもらって。
その翌年、『カルテット』で坂元さんと久しぶりに組むことができました。その時期、映画としては4年ぐらいブランクがあるんですが、その間にドラマでやっていたことが、結果的に『罪の声』『花束みたいな恋をした』とつながっていって、それは僕の中ではすごく意味のあることだったんです。初めて映画をやった時から、毎度毎度『テレビドラマと映画の違いってなんですか?』『演出する時に変えていることとかあるんですか?』と訊かれてきて、演出がどこかテレビドラマっぽいともよく言われてきました。まあ、そういうのは僕の宿命だと思っているし、それを否めない部分も理解してるんですけれども、野木さんや坂元さんと映画というフィールドでやることができたことも含め、ようやくそこから少しは自由になれたような気がします。それでも、映画的なるものとはなんだろうっていう自問自答は常にありますけど」
宇野「土井監督にとって、映画的なるものとはなんなんでしょう?」
土井「その時その時で思うことは違いますけど、基本的には、『どれだけ観客の想像力に訴えられるか』ということですね。作品の余白を残すというか。ただ、今回の『花束みたいな恋をした』に関しては、あまりそういうことを考える余地もなかったというか、坂元さんのテキストを自分なりにどう読み解くかっていうことが、自分にとっての大テーマでしたから。むしろそのおかげで、結果的には、これまでで一番自由になれたというか、自分らしさが出た作品になったんじゃないかな、と」
宇野「『花束みたいな恋をした』で印象的だったのは手持ちカメラの多用で。土井監督のこれまでの監督作品ではほとんどなかったですよね?」
土井「あれ、手持ちのように見えますけど、実は全部台車にカメラをつけて動いているんです。それなのにこんなに振動を拾わないんだ、と現場で驚きました」
宇野「ステディカムでもないんですか?」
土井「そうなんですよ。手押しの台車にステディのような振動を拾わない工夫をしてるんです。撮影の鎌苅(洋一)さんが、歩きのシーンが多いしということで研究して、そのシステムを作ったんです」
宇野「確かに、『花束みたいな恋をした』は“歩きの映画”ですよね。出会いのシーンから、一緒に住むようになって駅から川べりの道を歩くシーンまで、そのあいだに2人の距離が縮まったり、広がったりしますけど、基本2人が歩いている。やっぱり、そうやって人がよく動いている映画は映画的な作品になりますよね」
土井「先ほどこの作品では自分が『ニュートラルであることを課していた』と言いましたけど、それは撮影についても同様で。カメラって、時に第三の出演者のように見えてしまうことがあるじゃないですか。今回の理想は、できるだけカメラの存在感を感じさせないことでした。各シーンで、主観的にも客観的にもなりすぎない一番いい距離感で2人のことをそっと見ているような。その要求に、ちゃんと応えてくれるスタッフでしたし、この映画が成功しているとしたら、それが要因じゃないかなと思います」
宇野「なるほど」
土井「監督によっては、ワンカット、ワンカットにすごいこだわりのある方もいると思うんですけど、僕は撮影している時の空気、現場で起きているノリ、そのある種のライブ感みたいなものを重視するタイプなのかもしれません。準備にものすごく時間をかけて、すばらしい映像を生みだすことも大事だと思いますが、どちらかと言えば、いま目の前にいる登場人物たちのライブ感の方を大事にしたいという。映画作品を重ねていくことで、だんだん自分のそういう監督としての資質に気づいてきましたね」
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