【今週の☆☆☆】濃厚サスペンス『ファーストラヴ』、役所広司主演『すばらしき世界』など、週末観るならこの3本!

コラム

【今週の☆☆☆】濃厚サスペンス『ファーストラヴ』、役所広司主演『すばらしき世界』など、週末観るならこの3本!

週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します! CAPTION

MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週は、女子大生による父親刺殺事件を巡り、様々な男女の運命が交錯する衝撃作、役所広司が出所後の元殺人犯を演じる話題作、中国の新鋭監督による大家族の四季を描いたヒューマンドラマの、深い余韻が味わえる珠玉の3本!

みるみるうちに予測不能な世界へ飲み込まれていく…『ファーストラヴ』(公開中)

【写真を見る】北川景子がデビュー以来、初となるショートカット姿で難役に挑む(『ファーストラヴ』)
【写真を見る】北川景子がデビュー以来、初となるショートカット姿で難役に挑む(『ファーストラヴ』)[c]2021『ファーストラヴ』製作委員会

島本理生のベストセラー小説を映画化したサスペンス『ファーストラヴ』は女子大生が自分の父親を刺殺する衝撃エピソードで幕を開ける。いったいなぜ?事件に興味を持った公認心理師の由紀が顛末を知れば知るほど、人の闇の深さにずぶずぶと引きずり込まれていくように観客も予測不能な世界へみるみるうちに飲み込まれてしまう。芳根京子演じる父親を殺害した女子大生の凄まじい狂気。その母、木村佳乃の完璧すぎて奇妙な佇まい。弁護士役の中村倫也の背筋も凍る冷徹さ。彼の兄で由紀の夫を演じる窪塚洋介の何もかも見抜いているような圧倒的カリスマ性。驚異的な演技者たちに囲まれながら、傍観者でい続ける主演の北川景子のぶれなさが観客を正しくリードする。トラウマの苦しみは本人にしかわからない。その恐怖や不安をみごと映像化した堤幸彦監督。謎解きのサスペンスと重厚なヒューマンドラマの絶妙なバランスはさすがエンタテインメントの鬼才である。(ライター・髙山亜紀)

不思議なくらい魅力的な主人公の皮肉な運命が問いかけるものは…『すばらしき世界』(公開中)

作品毎に新たな魅力を放つ名優、役所広司が主人公の数奇な人生を体現(『すばらしき世界』)
作品毎に新たな魅力を放つ名優、役所広司が主人公の数奇な人生を体現(『すばらしき世界』)[c]佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

原案は直木賞作家の佐木隆三が1990年代に発表した「身分帳」。刑務所を出て社会に復帰した元殺人犯の軌跡を綴ったこのノンフィクション小説を、西川美和監督が現代に置き換えて翻案したヒューマンドラマだ。十犯六入(前科十犯、刑務所に6回入所)の主人公、三上正夫は、思わずドン引きしてまう血生臭い経歴の持ち主。しかし社会のシステムにつまはじきにされ、前科者ゆえに就職もままならない三上は、自立したアパート暮らしさえ実現できない無力な存在だ。おまけに瞬間湯沸かし器のごとく怒りっぽい半面、困った人を放っておけない正義感を持つこのキャラクターを、役所広司がユーモラスかつ哀歓豊かに体現した。そしてトラブルメーカーだが、不思議なくらい魅力的な主人公の皮肉な運命を映し出すこの映画は、最後に観客にそっと問いかけてくる。私たちが生きるこの世界は、はたして“すばらしい”のだろうか、と。(ライター・高橋諭治)


圧倒的な映像が包み込むように教えてくれる、人々の営み…『春江水暖~しゅんこうすいだん』(公開中)

カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれるなど世界的な注目を集める(『春江水暖~しゅんこうすいだん』)
カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれるなど世界的な注目を集める(『春江水暖~しゅんこうすいだん』)[c]2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

中国映画における“川”の重要性、親和性を改めて感じさせられる。大河・富春江が流れる富陽の街を舞台に、刻々と変わりゆく中国社会の中で懸命に生きる大家族の姿を、美しい四季を背景に映し出した人間ドラマ。年老いた母の誕生日を祝うため、4人の息子とその家族や親せきが大勢集まる。しかし祝宴の途中で母が脳卒中で倒れ、介護が必要に。飲食店を営む長男、倹しい暮らしを送る漁師の次男、ダウン症の息子を男手ひとつで育てながら裏社会に片足を突っ込む三男、気ままな独身生活を楽しむ四男。結婚やら教育やら孫世代も色々抱える中、誰が母の面倒を見るかなかなか決まらず――。
なんといっても大河・富春江を中心に据えた四季を映し出す、どこまでも奥行きが感じられる映像の美しさに心が凪ぐ。今の暮らしを守るために母の世話を押し付けながらも、老母に対する愛はそれぞれしっかり感じさせる。あぁ、こうして人は生き、歴史は繋がっていく、と圧倒的な映像が包み込むように教えてくれ、不思議な感覚に陥る。これが長編デビュー作となる監督グー・シャオガンの感性に、中国新世代の層の厚さを感じさせられる。(ライター・折田千鶴子)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

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