ついに明かされる『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』の深層…高橋栄樹監督が読者の疑問に次々回答
「今後、THE YELLOW MONKEYのPVを撮られることはありませんか?」(20代・男性)
「それはもうTHE YELLOW MONKEYのメンバーが必要としてくれているかどうかですね(笑)。僕自身、自分からあまりこれをやりたいという提案をすることはないのですが、以前手掛けた彼らのドキュメンタリー映画『パンドラ ザ・イエロー・モンキー PUNCH DRUNKARD TOUR THE MOVIE』は自分から作りたいとお願いしたんです。機会があればまたご一緒したいとは思っていますが、同窓会みたいになっても良くないですし。最近のMVは『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』の丸山健志監督とか、山田健人監督のように若い人たちがやっているので、それはとても良いことだと思っています」
「大林宣彦監督とは、AKB48のMVを監督されているという共通点がありますが、高橋監督が『ノンフィクションW 大林宣彦&恭子の成城物語〜夫婦で歩んだ60年の映画作り〜』を撮られた経緯や、ご自身が受けた影響を教えてください」(30代・男性)
「僕自身は世代的にも大林監督の大ファンで、特に編集技術の影響を大きく受けています。映画の編集は黒子ですから観客に意識させないように進めることが大半ですが、大林監督の作品は編集が前面に出て、個性を生みだしている。高校生の時に大林作品に出会い、初めて自分で映画を作りたい、編集したいと思ったのが僕のキャリアのきっかけです。映像作品を作りたいという衝動を多くの人に与えてくれた存在であることは間違いないと思います。
ですから、WOWOWのプロデューサーの方から、『ドキュメンタリーの企画があったらぜひ』と言われた際に真っ先に浮かんだのも大林監督のことでした。その時は『花筐 HANAGATAMI』を撮られる前で、がんの告知もされていない時期でした。でもその直後には、告知を受けながらも『花筐』がクランクインされて。このタイミングで取材を申し込むのも失礼だなと思い、一旦引っ込めていたんですが、犬童一心監督から『やった方がいい』と後押ししてもらい、犬童監督のプロデュースも手掛けられている江川智さんのご尽力もあり、WOWOWで実現したのです。
大林監督が撮られたAKB48の『So long!』のMVは、実は僕現場に行っていたんですよ。『青春デンデケデケデケ』みたいに10台くらいのカメラでいっぺんに撮りたいけど、台数が足りないから来てくれと頼まれていて、当時ちょうど『DOCUMENTARY of AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?』の撮影の真っ只なかだったのもあって、ステディカムを持って参加しました。
そこで初めて大林組の現場を体験できたのですが、撮影期間が3日しかないのに5分の曲のMVのために50分の映画を作ろうとしますし、劇場映画並みの厚さの台本の最後には譜面が10ページぐらいあったので『あ、ミュージックビデオは別で撮るんだ』と驚きました(笑)。そうして完成した作品を観たら、怖いものがなくなったというか、自分の信念を貫いて炎上などでめげていちゃダメなんだろうなと勇気をもらえました」
「今後、櫻坂46のドキュメンタリーを手掛ける予定はありますか?手掛けるならどのような作品になると想像しますか?」(30代・男性)
「ありがたいことですが、僕に言えるのはオファーをいただければ、ということですね。いまはコロナ禍ですので、エンタテインメントをどのように成り立たせていくのかを皆が一所懸命に考えている状況。先日発表した『新国立劇場バレエ団 -「くるみ割り人形」公演までの日々-』というコロナ禍での公演を控えた新国立劇場バレエ団に密着したドキュメンタリーは、まさに僕が思う、いまと以後のエンタテインメントのあり方を描こうとした作品です。
この『僕たちの嘘と真実』も、東京オリンピックに向かって加速度的に進化していく渋谷の街で、共に加速していくグループの話であり、祭りが終わった空虚感のなかでどう生きていくのかを提示する、というのが最初のコンセプトでした。でも結局コロナでオリンピックが延期となり、グループも改名した。結果的に、まったく先が予測できない社会のなかで、改名してこれからどう乗り出して行くのかを探るグループの姿がシンクロしていくことになりました。櫻坂46のように現在進行形のグループであればなおさら、ドキュメンタリーはどのタイミングで作るのかということが肝心だと思います」
「ドキュメンタリーの公開が決まった時、批判は監督に、賞賛はメンバーに、と不安な時期に言ってくれたのがファンとしてすごくありがたかったです」(10代・女性)
「なにより頑張ったのはメンバーであり、現場のスタッフですから、称賛されるべきは彼女たちであると考えているんです。僕に関して言えば、ドキュメンタリー映画を撮るにあたってはたくさんある映像を繋いだだけなので、あまり達成感という気持ちはないし、持たない方がいいと思っています。ですから一つの作品が終わった時には、虚しさというか、他人の人生を切り刻んで、ある方向を見ろと言わんばかりに作りあげたことの責任ばかりを考えてしまいます。
なので、ちゃんと批判も承って、次の糧にしていきたいと考えています。もちろん自分のやっていることは信じていますし、自分なりに揺るぎないものはありますが、この見方こそが正しいのだと提示してしまうとプロパガンダになってしまいますから、あくまでも一つのものの見方としてご覧いただけるように、多様性をもって今後もドキュメンタリーを作っていきたいと思っています」
取材・文/久保田和馬
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