なぜ、宣伝マンは真冬の樹海でハーバリウムを作ったのか?【実録映画宣伝 樹海の絆】
「富士の樹海で、ハーバリウムを作ることになりました」。
恵比寿にあるオフィスで温かいコーヒーをいただいていると、Kさんにそう切りだされた。
「ぜひ一緒に、樹海に行きませんか?」
同席していたTさんは強い口調でそう話すと、真剣な眼差しとともに身を乗りだした。
思わず外に目をやると、みぞれが窓にへばりついている。季節は冬だった。
『樹海村』のロケ地・富士の樹海へ出発
2021年1月末の土曜、始発で集合した我々はレンタカーに荷物を詰め込み、今回の目的地である富士の樹海に向かうため、夜明け前の東京をあとにした。
KさんとTさんは宣伝会社に勤務する、共に入社2年目の女性だ。昨年公開され、コロナ禍にあって14億円を超える大ヒットを記録した『犬鳴村』に続き2人が宣伝を担当しているのが、『樹海村』(公開中)だ。“入ったら最後、二度と生きては出られない”とされる富士の樹海を舞台に、前作に続いて清水崇監督がメガホンをとった本作は、樹海の奥に存在したと言われる“何者かが暮らす村”と、凶悪な呪いが封印された“コトリバコ”に触れてしまう姉妹の姿を、スリリングなタッチで描いている。
富士の樹海にほど近い場所に暮らす天沢家の次女の響(山田杏奈)と、長女の鳴(山口まゆ)は、ある時幼なじみの家の軒下で不可解な箱を見つける。それを境に2人の周囲では奇妙な現象が相次ぐようになり、やがて吸い寄せられるように樹海へといざなわれていく…というのが物語の概要だ。
本作で天沢姉妹が共に紛れ込むのが静岡県側の樹海で、映画の撮影時には、夏の暑さに加えて足場の悪さと格闘しながらのロケが行われたそうだ。しかしいまは真冬、足場が悪いでは済まされず、下手をすると本当に遭難してしまうのではないだろうか。
ハンドルを握るKさんは「そうなんですよ」と答える。洒落のつもりだろうか、拾わないことにした。
お気に入りのK-POPに乗せて、ざっくりとした英語でメロディーを口ずさむKさんの姿は、多忙を極める公開前とは思えないゴキゲンなものだ。
1年前、『犬鳴村』公開時のキャンペーンでは、旧犬鳴トンネルの呪いの空気を缶詰にした、空気缶を作った2人。本作でははなぜハーバリウムになったのかと尋ねると、「空気缶は好評だったんですが、記念品としてもっとお客さんに喜んでいただけるものはなんだろうってことになって。ハーバリウムになったのは『樹海なら、呪いの養分をたっぷり吸った苔だ!』という宣伝プロデューサーのアイデアです」と、栄養ドリンクを一気に飲み干すTさん。
Kさんは、「前回よりは楽だと思いますよ、苔なんて撮影現場の至るところに生えてましたから」とニッコリ。
車のトランクでは、スコップとバケツ、大量のガラス瓶がガチャガチャと音を立てていた。