ウェス・アンダーソン最新作やマッツ・ミケルセン主演のオスカー候補作も!「カンヌレーベル」注目作をピックアップ
マッツ・ミケルセンが常に酒を飲み続ける男を演じる『アナザーラウンド』
今年の米アカデミー賞における国際長編映画賞の最有力で、監督賞にもノミネートされたのが、デンマークのトマス・ヴィンターベア監督による『アナザーラウンド』(9月3日公開)。職場の学校では授業がパッとせず、家庭内でもぎくしゃくする教師が「血中アルコール濃度0.05%を維持したら、すべてうまくいく」という論説を信じ、同僚とともに実践するストーリー。つまり、常に酒を飲み続ける日常を送ったところ、授業でも生徒に大受けし、妻との関係も修復!もちろんドラマは二転三転するものの、突飛なシチュエーションで人生の喜怒哀楽に共感させる一作だ。
主演はマッツ・ミケルセンで、ヴィンターベア監督とは『偽りなき者』(12)以来の再タッグ。同作はマッツにカンヌ国際映画祭の男優賞をもたらした。日本でも根強い人気を誇っているマッツが、劇中で得意のダンスを披露するシーンもあるので、ファンには必見だ。
名優ヴィゴ・モーテンセンが初監督&主演を務める『Falling』
マッツ・ミケルセンと同様に、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ以来、日本でも熱いファンが多いヴィゴ・モーテンセン。満を持して監督デビューを果たしたのが『Falling』(公開未定)だ。主演も自身が務める。
ヴィゴが演じるジョンは、パートナー、そして養女と生活するゲイの男性。認知症となった父親を引き取ると決めた彼だが、父は保守的で頭が固く、同性愛嫌悪を露わにし、親子の激しい衝突へと発展してしまう。ジョンの少年時代も描かれ、LGBTQと家族という繊細なテーマをヴィゴがどのように演出したかに期待したい。『イースタン・プロミス』(07)などヴィゴの代表作を監督したデヴィッド・クローネンバーグが、俳優として参加しているのも気になるところ。
イスラエルの名匠が描く父子の逃避行『旅立つ息子へ』
そして珠玉の一本ということでは、『旅立つ息子へ』(公開中)を挙げたい。東京国際映画祭で2回のグランプリを受賞している、イスラエルのニル・ベルグマンの監督作品。自閉症スペクトラムの息子を世話するため、仕事のキャリアも捨てた父親。全寮制の特別支援施設への入所が決まった息子は、父親と別れるのを嫌がり、2人の逃避行が始まる。息子の成長、なかなか“子離れ”できない父親の葛藤。ドッキリさせるエピソードを盛り込みながらも、基本的に軽やかなロードムービーのように綴られ、観る者の心を温かく包む。
チャップリンの『キッド』(1921)など名作へのオマージュがあったりして、映画ファンの心をときめかせるところも、「カンヌレーベル」らしいと言えるだろう。
文/斉藤博昭