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どん底から這い上がろうとする女性を描く…品川ヒロシ監督最新作はコロナ禍の“いま”こそ心に刺さる!

コラム

どん底から這い上がろうとする女性を描く…品川ヒロシ監督最新作はコロナ禍の“いま”こそ心に刺さる!

いまの世の中を予見していたかのような『リスタート』の持つメッセージ性

2019年に撮影され、2020年の公開を予定していたものの、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、公開延期を余儀なくされた本作。まるでいまの世の中を予見していたかのようなタイトルも含め、監督も「撮影時にはコロナのコの字もなかったけど、『リスタート』にはやっぱり、なにかしらいまの世の中に通ずるものを感じる」と明かす。「もう一度新しく始めよう」「みんなで頑張ってここから這い上がろう」という時代の空気と、撮影中、低予算のなかスタッフ・キャストが一丸となって感じた「ここから這い上がっていこう!」という熱い想い。その2つがリンクすることによって、本作の持つメッセージ性は、世の中により大きな力を放つことになったのだ。

2019年に撮影された作品にも関わらず、いまの現実にリンクする部分が多い?
2019年に撮影された作品にも関わらず、いまの現実にリンクする部分が多い?[c]吉本興業

作中、28歳の未央は、高校を卒業する18歳の時に自分が歌った歌によって勇気づけられる。「映画だからわかりやすく過去に自分が歌っていた歌になっているけど、そういう経験って誰もがあるんじゃないかと思う。僕も『やってやるぞ』と意気込んだはいいものの、結局いろんな現実があって諦めたり挫折した時には、若いころに自分が言ってたことが一番刺さるんだよね」と振り返る品川監督。

そんな思いから監督が書いたというのが、『リスタート』のハイライトとも言うべき、100人を超える下川町民がエキストラとして参加した、下川産業組合農業倉庫でのライブシーンだ。未央が、いまの自分の気持ちをすべて歌にぶつけるこのシーンでは、ライブ感を出すために、EMILYの相方、HONEBONEのKAWAGUCHIもこっそりギターで参加。撮影を振り返って「夢を見させてもらった」と語ったEMILYだが、実はライブシーンではついミュージシャンとしての自分に戻ってしまい、「目の前にいる人たちを楽しませなきゃ」という気持ちで精一杯だったという。

【写真を見る】EMILYの嘘のない“本気の歌声”がエキストラを湧かせた圧巻のライブシーン
【写真を見る】EMILYの嘘のない“本気の歌声”がエキストラを湧かせた圧巻のライブシーン[c]吉本興業

しかし、結果的には彼女の嘘のない“本気の歌声”が、町民たちからの割れんばかりの拍手で、監督の「カット!」の声がかき消されてしまうほどの盛り上がりを生んだのだ。その現場の熱気は、本編の映像でも感じることができる。音楽ものの映画にしばしば見られる、どこか気恥ずかしくなってしまうようなライブシーンなどではなく、そこには間違いなく本物の歌声と、その歌声に圧倒された観客の感動が存在していた。

ドン底に落ちた未央を温かく見守る家族の存在にも注目

また、本作に欠かせないもう一つの大事な要素と言えるのが、未央を温かく見守る家族の存在である。疲れ果て、故郷に帰る決心をしたものの、母親(黒沢あすか)と義理の父親(中野英雄)、そして異父姉妹の妹、夏帆(朝倉ゆり)の3人が住む実家には、なんとなく自分の居場所がないように感じていた未央にとって、実家はあまり居心地のいい場所とは言えない。そんな未央が、ギクシャクしている父親との心の距離を、不器用に、しかしゆっくりと少しずつ縮めていくさまには、観ていて思わずジンとさせられた。

家族や仲間たちの存在が未央を優しく支える
家族や仲間たちの存在が未央を優しく支える[c]吉本興業

そんな父親役を演じた中野英雄は「EMILYの頑張りはすばらしく、悩み苦しむ主人公を見事に演じていました」とEMILYを絶賛。同じく、母親役の黒沢あすかも「吐きだしきれない未央の心情を歌声にのせ、昇華させていく姿は圧巻でした。気取らない仲間、家族との絆、大自然のなかで透明度を上げていく心。感動しました」とコメントを寄せている。

小さな一歩を踏みだす未央の姿に勇気づけられる

本作で、「初めてクランクアップで泣いた」という品川監督。EMILYの悔しさや怒りを脚本に落とし込んだと言いつつ、実は自分の思いも込もっていると話す監督は、劇中で大輝が未央に言う「28歳ぐらいで人生終わったみたいな顔すんな」というセリフについて「それは僕が20代の子たちに思うところでもあるし、同時に、自分自身にも『48歳ぐらいで人生終わったような顔すんな』って思うところでもある」と自戒を込めて明かす。


夢に向かって再び立ち上がる未央の姿に勇気づけられる
夢に向かって再び立ち上がる未央の姿に勇気づけられる[c]吉本興業

大きな夢を叶えたわけでも、現状が劇的に変わったわけでもないけれど、確実に一歩前に進むことができた未央。そんな未央を変わらず温かく見守る家族や友人たち、そして下川町の雄大な大自然に包まれた本作は、コロナ禍における一服の清涼剤であるとともに、いまの世の中のカンフル剤となり得るのかもしれない。


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