ジェイソン・ブラムが語る、低予算映画をハリウッドで成功させた秘訣とは?「いつか“完璧”な映画を作りたい」
「自分の製作会社を設立したら、ワインスタインと反対のことをやろうと心に誓っていました」
クリストファー・ランドン監督によると「ジェイソンは作り手を100%信頼し、決して製作のプロセスの邪魔をしたり、余計な口出しをしたりしない」とのことで、監督の作りたい作品をヒットにつなげるという、ブラムハウスの好循環を実感させる。
一度信頼したら、すべてお任せなのか?このあたりをブラムに聞くと、そんな単純な判断ではないという。
「クリストファーの場合は、僕らが監督に自由を与えるという環境に慣れていますから、やりとりがシンプルになっているだけです。そうではない相手には、僕らはクリエイティブ面で、脚本、キャスティング、撮影などさまざまな種類のアイデアを提供していますよ。その量は、ほかのハリウッドのスタジオより多いんじゃないでしょうか。そのアイデアの半分を活用する人もいれば、わずかに使う人もいます。つまり監督にクリエイティブ面のコントロールを委ねており、ファイナル・カットの権限を与えている、ということ。そうした環境作りによって、監督たちが僕らを信用するようになり、逆にアドバイスを積極的に求めてくるんです。『ザ・スイッチ』でも、クリストファーに追加のシーンを撮影するように提案してみましたが、彼はやりませんでした。それでいいんですよ」。
思いつかないアイデアを提供され、それを使うかどうかも自由。監督にとってブラムハウスの製作環境は理想的なのではないか。こうした環境を作ったきっかけには、反面教師がいたことをブラムは明かす。
彼はハーヴェイ・ワインスタインの下で仕事をしていた過去があるのだ。アカデミー賞作品を多数製作しつつ、近年はセクハラで逮捕されたことも話題になったワインスタインは、作品に対してこと細かく注文を出すことでも有名だった。
「ワインスタインは監督を信じられないほどコントロールしていました。女優の衣装の色などにも文句をつけたり、監督の意向を曲げさせようと大量の無駄な時間を費していたんです。僕はそれを横で見ながら、いつか幸運にも自分の製作会社を設立できたら、彼と反対のことをやろうと心に誓いました」。
「“完璧”な映画はまだ製作していない。その日が来るまで映画を作り続けたい」
ブラムハウスへの信頼感は、監督のみならず、俳優たちにも広まっているようだ。今回の『ザ・スイッチ』でもその評判が功を奏し、殺人鬼役のヴィンス・ヴォーンをキャスティングできたとブラムは振り返る。
「ヴィンスとは数年前に会いましたが、ブラムハウスの大ファンで、僕らの会社でなにか仕事をしたいと打ち明けられていました。だから今回、脚本を真っ先に送ったところ、出演を快諾してくれました。体が入れ替わる女子高生ミリー役を演じるキャスリン・ニュートンは、まだ14歳の時にブラムハウスの『パラノーマル・アクティビティ4』に出演して、その才能を確信していました。その後、彼女はめざましいキャリアを築き、今回ぜひ出演してほしいと脚本を送ったところ、エージェントには断られてしまいました。だからキャスリンに直接会って説得したんです。彼女もヴィンスも、僕らのファースト・チョイスですよ」。
そんなブラムに今後の目標を聞くと、彼にとっての理想の映画を挙げて次のように答えた。
「僕の人生を変えた映画は『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』と『ムーラン・ルージュ』ですね。常に細部まで記憶がよみがえります。つまり映画として“完璧”なんですよ。この2本のような映画を僕はまだ製作していないです。いつかその日が来るまで、映画を作り続けるという意味で、この2本は僕のモチベーションになっています。そのためにこれから仕事をしたい監督は、ポール・トーマス・アンダーソン、ギレルモ・デル・トロ、エドガー・ライトですかね…」。
昨年、ブラムは来日するはずだった。プライベートで東京オリンピックを観戦する予定だったのだ。「ホテルも新幹線も、そして人気の寿司屋まで予約済みだったんですよ。本当に残念でしたよ」。
今年開催されたらどうするか尋ねると、「もちろん観に行くつもり!」と満面の笑みをたたえていたブラム。海外からの観客受け入れが難しくなった現状に、ちょっぴり寂しさを募らせているかもしれない。
取材・文/斉藤博昭