「あのキス」の桃地から『いのちの停車場』まで、松坂桃李が魅せる“清らかな情熱”と“父性”
“息子”と“父親”の側面を見事に演じ分ける存在感
こうして今年の出演作を並べてみても、松坂の演技の振り幅には驚かされるばかりだが、そのなかでも松坂にとって新境地と言える役柄を演じているのが、『いのちの停車場』だ。
主演という立場を担うことも増えてきているなか、本作では助演というポジションで、吉永や西田敏行らベテラン勢の巧みな演技に負けない存在感を発揮。看護師の麻世を演じる広瀬すずと共に瑞々しい若さと輝きを放っている。
本作で松坂が演じるのは、将来に悩みながらも、咲和子(吉永)と出会って成長していく、医大卒業生の野呂。野呂はとにかく熱い青年で、それぞれの患者の願いや想いに体当たりとも思える行動を見せながら懸命に寄り添っていく。
息子と仲違いしたまま会えずにいる男性患者の手を取るシーンでは、その誠実さに胸打たれること必至。また、病を抱えつつ「海に行きたい」と願う少女に野呂は父性とも思える眼差しを向け、少女を温かく包み込んでいく。
このように、本作で“息子”と“父親”、両方の側面を見事に演じ分けている松坂だが、どの場面からも感じられるのは野呂のうちにある清らかな情熱で、松坂は持ち前のまっすぐさをにじませながら見事にそれを表現。観客はよりいっそう“自分の物語”として映画に入り込めるはずだ。その証拠に、『いのちの停車場』の公開記念舞台挨拶では松坂が終始、西田や泉谷しげるらベテラン勢にいじられるなど、現場でいかに愛されているかが伝わるようなひと幕があった。
トーク番組やバラエティ番組で見せる素顔は和み系そのものだが、俳優としての力は化物級。これからもどんな新しい顔を見せてくれるのか、楽しみでしかたない。
文/成田おり枝
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