『Arc アーク』原作者ケン・リュウ×石川監督の「温度が同じ」クリエイティビティ

インタビュー

『Arc アーク』原作者ケン・リュウ×石川監督の「温度が同じ」クリエイティビティ

「リュウさんの描く“多様性を前提にした世界”に大変共感します」(石川)

――実写映画化するということは、生身の役者が役を担い、物語を作っていきます。リュウさんの中で、印象的だったキャストは?

リュウ「間違いなく芳根京子さんですね。10代から100歳以上までを演じながら、信ぴょう性ももたらさなければならない。きっと、多くのものを積み上げて役を成立させているのだなと感じました。“歳を取る”を見た目で表現していないぶん、作品全体を彼女が背負う必要性があったかと思いますが、芳根さんはすべてを出し切って、想像力を交えながらもパワフルな演技を披露してくれました」

ケン・リュウも絶賛した芳根京子
ケン・リュウも絶賛した芳根京子[c] 2021映画『Arc』製作委員会

――ケン・リュウさんと石川監督は、原作者・エグゼクティブ・プロデューサーと監督・脚本という立場でコラボレーションを果たしたことで、お互いをどのように見ていますか?

石川「ケン・リュウさんは同世代で、書かれているものも100%共感しますし、自分の事だと思いながら読んでいます。最も共感するところがどこかというと、『円弧(アーク)』であれば『不老不死が良いか、悪いか』という話ではなく、『不老不死になった世界では、自分がいまマイナスだと思っていることも将来的にマイナスのままかはわからない』という視点で立っているところ。


衣装、ロケ地、細かい小物にいたるまで、時代を特定されないような普遍的で近未来を予感させるものが選ばれた
衣装、ロケ地、細かい小物にいたるまで、時代を特定されないような普遍的で近未来を予感させるものが選ばれた[c] 2021映画『Arc』製作委員会

技術革新によって、自分たちの価値観がアップデートできるかどうかが大切であって、その良し悪しはあくまでいまの私たちの価値観でしかないんですよね。ケン・リュウさんは物事を善悪や白か黒かで見ていないんです。僕たちの世代は、価値観が大きく変動していた時代に育ってきて『親が言っていることも正しいけど、子どもの言っていることも間違っていない』と感じてきた。そうした“多様性”を前提として書かれている部分に、非常に共感しています」

石川監督と芳根京子のメイキング風景
石川監督と芳根京子のメイキング風景[c] 2021映画『Arc』製作委員会

リュウ「2人とも理系出身なのも、大きいかもしれませんね。石川監督は物理学を研究されていて、私はコンピュータ科学を専攻していました。そうした素養もあって、お互いに“世界に対する理性的な見方”に惹かれるのではないでしょうか。リベラルアーツ的なものの見方と、エモーショナルなストーリーテリングへの興味が同時にある。それが、私たちの共通項のように思います。

理系2人の表現力が、絶妙なコンビネーションを発揮
理系2人の表現力が、絶妙なコンビネーションを発揮[c] 2021映画『Arc』製作委員会

科学が好きな人に、ストーリーテリングで人を楽しませる意義を説明してもなかなか理解されないし、物語を愛する人に物理や数学の美しさを訴えてもピンとこないことが多い。だからこそ、この“どちらにも惹かれる”という部分は、石川監督にとっても自分にとっても大切にしている部分なのかなと感じています。
石川監督は『自分の書いた言葉が多くのスタッフに波及していくからこそ、一つ一つの言葉を考える』とおっしゃっていましたが、その部分は目から鱗でした。私はこれまで、どちらかといえば自分の好きなように書いてきましたが、脚色や脚本、翻訳の仕事なども行っていることもあり、石川監督のように考えて書いていかなければと思いました」

取材・文/SYO


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