映画ファンが『オールド』に惹かれる理由とは?『ミッドサマー』『クワイエット・プレイス』らと呼応するテーマ性
『シックス・センス』(99)のM.ナイト・シャマラン監督が新たに仕掛ける謎解きタイムスリラー『オールド』(公開中)。南の島の楽園リゾートを訪れたある家族が、美しいプライベートビーチで楽しいひと時を過ごそうとしたことから、不可思議な現象の連鎖に巻き込まれていく。スリラー作品はかねてより映画ファンの人気ジャンルだが、特に近年はより幅広い層に支持される作品も増えてきている。そこで今回は『オールド』に通じる印象的なタイトルをピックアップし、場所、時間、家族という3つのキーワードから、本作の“おもしろさ”がどこにあるかを探っていきたい。
ある“場所”で待ち受けるものとは…斬新な設定が恐怖を増長
『オールド』は、ガイ(ガエル・ガルシア・ベルナル)とプリスカ(ヴィッキー・クリープス)のキャパ夫妻が娘と息子を連れて、問題のビーチにやって来たことから物語が動き始める。実はこのビーチは時間の概念が異常になった場所で、そこにいるだけで急速に老いが進行してしまうのだ。このように登場人物がとある“ヤバい”場所に足を踏み入れたことで、異常な状況下に置かれてしまうといった作品は、『ウィッカーマン』(73)や『シャイニング』(80)、『グリーン・インフェルノ』(13)など数多く作られてきた。
そんな作品群のなかで、ここ数年で話題になったものを挙げるなら、白人のガールフレンドの実家を訪れたアフリカ系アメリカ人の青年が体験する恐怖を描く『ゲット・アウト』(17)だろう。一見すると主人公を好意的に受け入れてくれるガールフレンドの両親や、一家の友人であるセレブな年配の白人たち。しかし、彼らからの過剰なまでの歓迎や、奇行が目立つ黒人の使用人の存在もあり、青年はしだいに不信感を覚え始め、やがて衝撃の真実を知ることに…。アメリカに根強く残る人種差別を反映したストーリーも高く評価され、第90回アカデミー賞で作品賞や監督賞など4部門にノミネート、脚本賞を受賞した。
スリラーのジャンルで、いまもっとも次回作が期待される監督の一人がアリ・アスターだ。衝撃の長編デビュー作『へレディタリー/継承』(18)に続く『ミッドサマー』(19)の舞台となった、“90年に一度の祝祭”が開かれるスウェーデンの奥地にある集落の異様さも尋常ではない。祝祭に招かれたアメリカの大学生グループが、白夜の村での幻想的な日々を過ごすなかで、一般常識では到底受け入れられない残酷な祭事と悪夢に見舞われてしまう。フローレンス・ピュー演じる主人公と彼女の恋人との破綻した関係性もミソで、ギクシャクした2人のやり取りや、うわべだけの優しさを見せる男の優柔不断さも見え隠れし、観る者に妙な居心地の悪さを感じさせる。
この2作品と『オールド』に共通するのは、物語の舞台となる場所の斬新さ。最初は非日常を楽しめる無害な場所に思えるのだが、時間が経つにつれて不気味さが浮き彫りになり、じわじわと(観客も一緒に)精神的に追い詰められていく。気が付けばその場所から脱出することができなくなり、登場人物が無事に生還できるのか?それとも…という不安感を生みだしている点もポイントだ。