映画ファンが『オールド』に惹かれる理由とは?『ミッドサマー』『クワイエット・プレイス』らと呼応するテーマ性
異常な状況下でこそ試される、普遍的な“家族”の絆に涙
『クワイエット・プレイス』(18)は、音に反応して人間を襲う“なにか”によって荒廃した世界を生きる一組の家族の物語。“なにか”の正体やそれがどこからやって来たのか、一家以外の人類は滅んでしまったのか?多くのことが謎に包まれたまま、得体の知れない恐怖から互いを守ろうとする家族の絆が描かれている。身重の母親を支える夫や子どもたちの思いやり、大切な人を守るため危険に立ち向かう勇気がドラマを盛り上げており、本作のサプライズヒットを受けて続編『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(21)も製作された。
『オールド』もまた、ビーチでの時間が急速に進む原因はもちろん、脱出しようとする者を襲う強烈な頭痛や、前にここを訪れた人たちの物と思われるスマホや食器類が見つかるなど多くの謎に満ちている。さらに、あっという間に成長して大人の体になってしまった娘や息子に向き合う両親、その逆でだんだんと年老いていく親を守る立場になる子どもなど、なにもなければゆっくりと時間をかけて経験するはずの家族の関係性の変化がたった1日で起きてしまう。このような状況下だからこそ試されるのが、“家族”の愛であり、コロナ禍によって社会が隔絶されてしまったいまだからこそ、人と人とのかかわり合いや、助け合うことの大切さを再認識させられる。
本稿で紹介してきた作品群に共通するのは、斬新な舞台設定と観客を釘付けにする緊迫感もさることながら、心の動きにフォーカスした“スリラー”というジャンルだからこそ、現代社会を風刺するようなメタファー、人間同士の関係性を描けるということだ。
まさに『オールド』は、年齢を選ばず、自身の経験と重ねられる普遍的な家族ドラマの要素をも持っている。はたして、登場人物たちはビーチから脱出することができるのか?そして、その過程で彼らが得るものとは。その答えは、ぜひ劇場で確かめてほしい。
文/サンクレイオ翼