もしも老いない身体を手に入れたら?先駆的な世界観で描く『Arc アーク』は、まさに現代が求めるSF映画だ

コラム

もしも老いない身体を手に入れたら?先駆的な世界観で描く『Arc アーク』は、まさに現代が求めるSF映画だ

コロナ禍という未曾有の事態に直面し、約2年。エンタテインメントの形も日々変容し、大きな変革・進化を遂げているなか、ひと際異彩を放つ映画が生まれた。それが石川慶監督、芳根京子主演の映画『Arc アーク』だ。本作の立ち上げ自体はコロナ以前ではあるが、「まだこの国にない」タイプの映画であり、新機軸のクリエイションの胎動が増幅している“いま”に、ことごとくマッチしている。「創意工夫」という言葉が使われて久しいが、世界中の作り手たちがこの時代に即した表現とはなにか、試行錯誤を繰り返している時期ともいえる“いま”。日本映画においても、既存の枠組みにとらわれない才能や形態がどんどんと台頭してきている。

【写真を見る】岡田将生×芳根京子の危うく洗練された魅力が楽しめる、『Arc アーク』の見どころを大解剖!
【写真を見る】岡田将生×芳根京子の危うく洗練された魅力が楽しめる、『Arc アーク』の見どころを大解剖![c]2021映画『Arc』製作委員会

本作は、「不老不死」をテーマに「永遠に生きられる身体を手に入れたら、どんな人生を選ぶか?」という人類永遠の“欲望”への投げかけを、知性と感性に裏打ちされたエモーショナルな表現で描き、多くの点において今後の日本映画の未来を占う力作だ。早くも、期間限定先行レンタル(11月21日23時59分まで)&デジタルセル配信中。スクリーンで見逃した人はもちろん、観たあと大いに考えさせられる映画なので、ぜひこのタイミングで『Arc アーク』の奥深い世界に踏み込んでほしい。

知的でリアリティのあるSFを構築したケン・リュウ

まず注目したいのは、本作の原作者ケン・リュウについて。2011年に発表した「紙の動物園」で、3大SF文学賞とされるネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞を総なめ。独創性と卓越した筆力を持ち、世界中で記録的な大ヒットを叩きだした中国のSF小説「三体」の英訳者でもある。

『Arc アーク』原作者のケン・リュウ
『Arc アーク』原作者のケン・リュウ[c]2021映画『Arc』製作委員会 [c]Li Yibo (李一博)

彼が書き上げた短編「円弧(アーク)」は、死体を永久保存する“プラスティネーション”という実際の技術を題材に、「若さを保とうとする願い、老いに対する恐怖」に踏み込んだ内容。とはいえ、オカルト色やドラスティックさは皆無。極めて知的に、かつ静謐に「人の心と科学技術」の関係性を見つめている。ひと言でいえば、彼の作品には、細やかな情緒が感じられるのだ。SF=サイエンス・フィクションでありながら、豊かなリアリティが反映されている。

遺体を永久保存する“プラスティネーション”は神秘的な雰囲気が漂う
遺体を永久保存する“プラスティネーション”は神秘的な雰囲気が漂う[c]2021映画『Arc』製作委員会

しかも今回の映画化において、リュウはエグゼクティブプロデューサーも兼任。映像化の意義を尊重しつつ脚本を読み込み、アドバイスを行ったことで、石川監督ら制作陣に多くのインスピレーションを与えたという。世界的作家であり原作者が自らの感性と創造性を惜しみなく提供した結果、他に類を見ない映画が完成したのだ。

「不老不死の人生」を自分事として実感できる世界観

本作の制作陣は、従来のSF作品とはひと味違った世界観を構築。「不老不死が実現したら?」という“If(もし)”を、私たちが生きる日常の延長線上に据え置いた。

不老不死の技術は人類の夢だが、もし完成した場合、どんなことが起こるだろう?『Arc アーク』では、不老不死の技術がじっくりと時間をかけてアップデートされ、それとともに移りゆく社会と世界の変化を丹念に見つめている。黎明期には「命の選別は格差、差別を生む」「道徳、倫理に反する」と各地で反発や暴動が起こり、しかしその技術が広く流布していくと「新しい生活様式」として受け入れられ、少数派になった「不老不死を望まない人々」のコミュニティが形成されていく。

史上初めて不老化処置を受け、人類の先駆者となったリナ(芳根京子)
史上初めて不老化処置を受け、人類の先駆者となったリナ(芳根京子)[c]2021映画『Arc』製作委員会

本作で核となる物語は、芳根京子演じる主人公リナの17歳から135歳までの人生だが、その間ほとんど彼女の見た目は若いまま変わらない。しかし彼女が生きる“社会”がきっちりと構築されているため、観る者に浮世離れした感覚を抱かせない。現実世界にベースが置かれていることで、私たちは予備知識なく自分事としてもその“If”を“体験”できるのだ。

リナのパートナーとなるストップエイジングの天才科学者、天音(岡田将生)
リナのパートナーとなるストップエイジングの天才科学者、天音(岡田将生)[c]2021映画『Arc』製作委員会

つまり、本作においてはリナを中心に世界が回っているのではなく、回り続ける世界の中にリナがいる。彼女は「人類史上初めて不老不死の身体となった人物」であるが、本作ではリナだけでなく「不老不死を選んだ人」「(自らの意志で)不老不死を選ばなかった人」「(金銭的理由などから)不老不死を選べなかった人」がちゃんと登場する。それぞれの人物の“選択”と“人生”を描いていくため、今後あり得るかもしれない未来の社会システムとそのなかで生きる人々のドラマが、真に迫ったものに到達。荒唐無稽なSFとは一線を画す領域へと、作品を押し上げている。

リナの師であるエマ(寺島しのぶ)は、不老化は人類の進化ではなく退化であると反対
リナの師であるエマ(寺島しのぶ)は、不老化は人類の進化ではなく退化であると反対[c]2021映画『Arc』製作委員会


『Arc アーク』には私たち観客が「不老不死になったら、どんな人生を選ぶか?」という命題に直面した時に感じる事柄が、いくつものパターンで物語の中に落とし込まれているのだ。リナ以外の登場人物に自分を重ね合わせる観客もいれば、劇中に映しだされる名もなき人々に自らを見いだす人もいるだろう。ただ、重要なのは本作ではどんな選択をする観客も置き去りにしないということ。「自分事として受け止められる」から各登場人物への“共感性”が高まるだけでなく、“多様性”を見事にカバーしているため、観る者が疎外感を抱かない作りになっている。

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■『Arc アーク』
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