もしも老いない身体を手に入れたら?先駆的な世界観で描く『Arc アーク』は、まさに現代が求めるSF映画だ
真実味を積み上げ、未来を表現する衣装や美術
観客それぞれが自分事として受け入れられ、真実味を感じられること。それを生みだすのは物語や世界観、人物描写であり、演出や美術、衣装、照明に音楽、演技といった各セクションのエキスパートたちの腕の見せどころでもある。
特に本作においては、従来のSF作品とは大きく異なる「逆転の発想」が実に秀逸だ。それは“近未来”を彷彿とさせるメタリックな流線型や無機質なガジェットを大量に登場させるのではなく、「いまあるものを古びさせる」(かと言って退廃的な未来ではない)ことで時間の経過を示し、時制としての未来描写を成立させたこと。前者が“いまないものが登場する=未来”のロジックであるなら、本作は“いまあるものが朽ちる=未来”という方法論だ。
どちらも目指す方向は同じであるが、考えてみれば私たちが生きる現在において、前時代から継承されてきたものは多い。現在と地続きの“少し先の未来”を描くのであれば、なおさらその意識は不可欠だ。SF映画としての世界観を捉えながらも、あくまで現実ベースで構築していくという論理展開。これは『メッセージ』(16)や『インターステラー』(14)といった近代の優れたSF作品とも共通する感覚であり、そこに本作の知性を感じずにはいられない。
衣装においても、作品の一部を構成するモノクロによる演出を最大限に利用し、カラーのパートでは派手な色彩の服を大胆に取り入れた。『蜜蜂と遠雷』(19)でも石川監督と組んだ美術監督の我妻弘之、スタイリストの高橋さやかに代表されるクリエイターたちの洗練された美意識を感じさせる。高橋は「不老化技術によって見た目は同世代でも、実は何十歳も離れていたりするなど、考え方もまったく違うので、人々のファッションに対する流行やルールの感覚は薄い」といったロジックで衣装を構築していったという。
私たちが生きる現実世界とはまったく異なる別世界に連れて行ってくれるファンタジックなSF映画も陶酔感があり楽しいものだが、時代に依存するぶん、後世の観客とズレが生じ、劣化や風化を余儀なくされてしまう作品も少なくない。対して、テーマに即し、現実離れすることなくコツコツと真実味を積み上げていった結果、『Arc アーク』は時代の流行り廃りに左右されない“不老の映画”と相成った。映画が誕生して120余年、その最先端で産み落とされた本作は、この先も悠久の時を生き、愛されていくことだろう。
文/SYO
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